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大好きなロン・コッブのデザインたち【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.49】

大好きなロン・コッブのデザインたち【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.49】

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かわいい宇宙人ハンマーヘッド





 そしてなんといっても一番のお気に入りは『スター・ウォーズ エピソードIV/新たなる希望』で一瞬登場したハンマーヘッドこと、モモー・ネイドンである。モス・アイズリー宇宙港の酒場でちらりと姿が映るだけのキャラクターでありながら人気は根強く、その同種族(種族名はアイソリアン)のキャラクターはのちの作品群にもたびたび登場する。シュモクザメのように両側に飛び出した眼と不思議な形状の頭部から、初期の名称はハンマーヘッドといい、キャラクター名や種族名が明らかになった今でも愛称としてそう呼ばれる。


 『エピソードII/クローンの攻撃』と『エピソードIII/シスの復讐』の間を描いたアニメシリーズ『スター・ウォーズ クローン大戦』(セルアニメによる作品でのちの3DCG版シリーズ『クローン・ウォーズ』とは別物)では、ロロン・コロブ(Roron Corobb)という名前のアイソリアンのジェダイが登場するが、お察しの通りアイソリアンの生みの親であるコッブの名前から来ている。このシリーズは本連載47回「CG化されたカートゥーンとしての『モンスター・ホテル』」でも紹介したクリエイター、ゲンディ・タルタコフスキーによるもので、特徴的なシャープな線と洗練されたデフォルメタッチでSWの世界が描かれており、ロロン・コロブにしても、アイソリアンの印象的な頭部の形状がシンプルな線でよく表現されていた。銀河の首都コルサントが攻撃を受けたとき、コロブは最高議長パルパティーンを警護するジェダイのひとりだったが、彼らが襲撃者に負けたことで議長は誘拐され、それがそのまま『シスの復讐』の冒頭へとつながっていく。

 

 コッブはほかにもヤギのようなツノをした種族ゴウタルや、体毛のない青い肌に赤い眼をした種族デュロスなどをデザインしているが、いずれも独特の造形で、得体のしれなさと同時にどこかかわいく感じられる。どこかかわいらしいというのも、コッブ印と言えるだろう。


 実は昨年東京でも開催された展示「スター・ウォーズ アイデンティティーズ:ザ・エキシビジョン」にて、このコッブによるハンマーヘッドのコンセプト・アートの原画を直に目にしてきたのだが、大好きなキャラクター、そして大好きなアートワークだったこともあって、ひと目見て心を打たれて釘付けになった。インターネット上で何度も目にしてきた有名な絵で、よく見ているつもりだったのだが、実際に見るのはやはり全然違った。まず画用紙の意外な大きさに驚き、そして吸い込まれるような力強く細かい筆致に圧倒された(いずれも画面上ではわからない)。延々と見ていられる絵で、どこからどういうふうに描いたのかという想像さえ掻き立てられ、とにかく楽しかった。


 これはあとで知った風刺漫画もそうなのだが、ベタ塗りというものを知らないのかというくらい、ペン先だけで黒々とした宇宙や強い陰影を描き込んでいるのが特徴的だ。それはまるでインクを鉛筆のように扱っているとでもいうような描き方で、同じく黒い線で絵を描く身としては(というか主線がないと描けないのだが)とても惹かれ、憧れてしまう。


 画力はもちろんのこと、これだけ様々なモチーフに対し発揮できる造形力も尊敬するばかりだ。そして、自動車であれ宇宙船であれ、クリーチャーであれ、かっこよかったり不気味だったりしても必ずどこかが丸みを帯びていて、親しみやすさを感じさせる感覚にも、この先ずっと憧れ続けるだろう。なにを描いても自分の印が現れる、そんな描き手になりたいものである。素晴らしい造形の数々をありがとう。どうか安らかに。



イラスト・文:川原瑞丸

1991年生まれ。イラストレーター。雑誌や書籍の装画・挿絵のほかに映画や本のイラストコラムなど。「SPUR」(集英社)で新作映画レビュー連載中。 

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