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『スパイの妻』を作った師弟愛。黒沢清・濱口竜介・野原位インタビュー【Director's Interview Vol.84】

『スパイの妻』を作った師弟愛。黒沢清・濱口竜介・野原位インタビュー【Director's Interview Vol.84】

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「世界の黒沢」がまたひとつ、快挙を成し遂げた。黒沢清監督最新作『スパイの妻<劇場版>』(以下、『スパイの妻』)(10月16日公開)が、第77回ヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞(監督賞)に輝いたのだ。『岸辺の旅』(15)や『トウキョウソナタ』(08)など、カンヌ国際映画祭での受賞はこれまでに経験してきたが、ヴェネツィア国際映画祭は初めて。日本でも、大きく話題を集めた。


この『スパイの妻』、もともとはNHKが8Kで制作する特別ドラマだった。それが好評を博し、劇場公開に展開した形だ。舞台は1940年の神戸。神戸で貿易会社を営む優作(高橋一生)は、仕事で赴いた満州で、恐るべき国家機密を知ってしまう。正義のため、彼はその秘密を公表しようとするが、それは自らの命を危険にさらすことを意味していた。


一方、優作が何かを隠していると勘づいた妻・聡子(蒼井優)は、不安に駆られながらも彼の動向を探り、真相を明らかにしようとする。やがて、事の顛末を知った聡子は、「スパイの妻」と罵られても夫と連れ添おうと決意するのだった。


日本の闇に切り込む骨太なテーマをサスペンスフルに演出し、かつ「夫婦のコン・ゲーム」という要素を見事に捌き切ったのは、黒沢監督と、脚本を務めた濱口竜介・野原位(『ハッピーアワー』(15))の黄金トリオ。3人はどのようにして脚本を練り上げ、この物語を生み出していったのか。


黒沢監督と、“教え子”でもある濱口・野原の“師弟愛”もまじえつつ、お届けする。


Index


黒沢監督に「面白い」と思ってもらえる脚本が大前提



Q:まずは、ヴェネツィア国際映画祭での銀獅子賞受賞、本当におめでとうございます。流れる時間も映像も、もちろん物語も、非常に贅沢な作品を拝見した印象です。


黒沢・濱口・野原:ありがとうございます。


Q:改めて、本企画の成り立ちから伺ってもよろしいでしょうか。元々は、お三方の参加が決まっていて、テーマが「神戸」ということ以外は決まっていなかったと聞きましたが……。


野原:そうですね。もともとInclineのプロデューサー陣とともに、NHKさんと神戸を舞台に8Kを使って映像作品を作れないか、というところから始まりました。


そこで、黒沢監督も神戸のご出身ですし、ダメもとでお声がけさせていただいたんです。濱口さんも脚本家でご提案させていただき、ありがたいことに皆さんにご快諾いただけて、具体的に動き出しました。




Q:野原さんと濱口さんが用意されたプロットは2つ。うち1つが、今回の『スパイの妻』だったそうですね。どういったところから、この発想が生まれたのでしょう?


濱口:何とかひねり出した、というのが正直なところです(笑)。大前提としてあったのは、黒沢さんに面白いと思ってもらわないと始まらないということ。どんな話を書いたら、黒沢さんが興味を持ってくださるのか?を中心に考えました。


ヒントになったのは、黒沢さんが以前企画していらした映画『一九〇五』。この映画自体は製作がかなわなかったのですが、時代劇、というか歴史もののスパイものは黒沢さんにもご興味を持っていただけるのではないかと感じたんです。現代ではないけれども、今の時代と地続きの人々の物語なら、きっといけるのではないか、また8Kということはドラマ自体にもスケールを要求されるだろう、という、これ自体は浅知恵ですが、そういうプロセスですね。


そして、じゃあ歴史もののスパイものにするなら、そのスパイが持つ“秘密”はなんだろう……と調べていったときに実際に映画にも出てくる、日本軍の機密を記録したあるフィルムに関する証言にたどり着きました。


実物は現在、確認することはできませんが黒沢さんは『LOFT』(04)や『CURE』(97)でも、戦前に起源を持つフィルムを劇中で作られているし、黒沢さんならばこのフィルムを劇中で撮ることができるのではないか、というのが発想の一つの核になりました。そうしたことが一つ一つ集まって、綱渡りのようにできていった、という感じです。


そこに、黒沢さんの『回路』(00)や『CURE』(97)の世界観・質感が加わったら、面白くなるのでは?という期待もありつつ、ちょっと綱渡りのような感じで考えていきましたね。


Q:詳細まで教えていただき、ありがとうございます。黒沢監督は、プロットを読まれた際はいかがでしたか?


黒沢:日本が、諸国と緊張関係にあった時代というのは、前から描きたかったところです。ただやはり、単純に脚本がめちゃくちゃ面白かったんですよね。何が面白かったかといいますと、夫婦が騙しあいをするところ。ここは、僕には到底思いつけない部分ですね。


どちらがどちらかを騙す、というのは発想できなくもないんですが、夫が何か秘密をもって妻に隠している、そうすると妻が、真実を求めて夫を出し抜こうとする、この関係性ですね。妻がある種、夫を誘導していく――その中でサスペンスやメロドラマが立ち上っていくさまが、めっぽう面白かった。



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