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『ホテルローヤル』武正晴監督 原作者自身を理解することで見えてくるものがある【Director’s Interview Vol.92】

『ホテルローヤル』武正晴監督 原作者自身を理解することで見えてくるものがある【Director’s Interview Vol.92】

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原作者を理解する



Q:原作を読んでから映画を観たのですが、映画的にうまく変換されている印象を受けました。監督は、原作を読んでいる時から常に映画として変換されているのでしょうか?それとも一通り読み終わってから、映画としてどうするか考えられるのでしょうか。


武:もちろん、本を読んでから映画化しようというのではなく、どうやったら映画になるだろうって、最初から考えて徹底的に読み込みますね。とにかく何度も繰り返して読みます。今回はそうして読んでいくと、小説の中でいろんな箇所がリンクしていることが分かってきたんです。そして一旦各章をバラバラにして、そこから繋ぎなおして脚本化していく。普通はサラッと読んで終わりですけど、この小説を映画にするので、もう徹底的に読みますよ。


あと、桜木さんの小説は全部読みましたね。僕は勝手に、主人公=桜木さんだと思って読んでいました。そうすると、桜木さんがどういう視点でものを見ているかが分かってくるんです。桜木さんの作品にある共通性みたいなものがあって、それを各作品からそれぞれ引っ張り出してくると、今回の映画に使える要素が意外にたくさんあるんです。それらも脚本に放り込んでいきました。桜木さんの小説の中に出てくる音楽、服装、テレビ番組から、何から何まで全部抽出して、映画に入れ込んだら、桜木さんにも喜んでいただけましたね。


僕は普段映画ばっかり観ていて、本はあまり読まないから、正直言って小説を映画にするのは苦手な方なんです。だから作者を理解して、作者に頼るしかないんです。『』(18)の時もそうでした。あの時も作者の中村文則さんを理解するのに必死でしたね。彼の書いている文章を全部読んだらやっと分かってくる。それで何とか脚本化していく。でも、だから面白いんです。この作家の考えていることは何なんだろうって、理解しようとしていく中で、その裏が見えてくることがある。


今回に関しては、桜木さんが、北海道に生きて、北海道のことを書き続けてることに興味があった。なぜこの人はずっと北海道のこと、釧路のことを書き続けているんだろうと。最初は釧路のことが一切分からなかったのですが、この人の小説を読んでいると、釧路がだんだん見えてくる。面白かったですね。


あともう一つは性描写が非常に的確で面白い。本当にこれ女性が書いてるのかって驚きました。男側の気分をバシバシ掴んでくるんですよね。その辺はぜひ脚本に入れ込みたいなと思いました。




Q:オリジナル脚本の場合はどうですか?


武:それはオリジナルの方が気が楽ですよ。何書いてもいいし、好き勝手なことができるんだから。原作モノの場合は、その作家の世界を壊すわけにはいかないし、その原作のファンが嫌なものも作れないし、慎重になりますよね。セリフ一つ取っても、“てにをは”をどこまで崩していいのか、小説だと成り立つけど実際の会話となると違和感がある。そんな時もどこまで修正していいのか悩みます。今回、桜木先生はそこが自由だったから、本当に良かったですけどね。


これまでも原作モノの企画をやったことがあるのですが、原作者とうまく合わずに途中で企画が潰れることもよくありました。原作者からすると、自分が書いたものを触られることに対する気持ちもあるし、僕らもそこは気を遣うし、苦しいですよね。よく分からないってこともあるしね。


Q:なかなか難しいですよね。


武:プロデューサーたちは原作モノをやりたがりますよね。商売にするにはそっちの方がいいからね。でも僕らは逆。だって自分たちで勝手にやってる方が楽しいじゃん。だからみんな自主映画で自分の妄想みたいな映画を作ったりするんだけど。もっとメジャーでも妄想的な映画をどんどん作ればいいなと思いますけどね。



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