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芥川賞&文藝賞受賞小説×田中裕子×沖田修一『おらおらでひとりいぐも』を作りだしたプロデューサーたち【CINEMORE ACADEMY Vol.12】

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難しい原作を脚本化する沖田監督の手腕



Q:先日沖田監督にインタビューしたのですが、監督も最初に原作を読んだときは、映画化は難しそうだとの印象を持たれたそうです。しかし、完成した映画と原作を比べてみると、原作からの改変はありつつも、原作のエッセンスを見事に抽出して映画化していることがよくわかります。原作者の若竹千佐子さんから、特に修正もなくOKが出たのもわかる気がします。


竹内:それはもう、沖田監督が書いてくださった初稿が、すごく精度が高くてですね…。いきなり映像が立ち上がっているような脚本になっていたので、そのお陰ですね。


Q:竹内さんが頭の中で映像化していたものと、監督が書かれた(映像化された)脚本でズレはなかったのでしょうか。


竹内:私が書いた企画書では、原作で「柔毛突起」と表現されている「寂しさ」たちは、アニメーションで表現出来ないかとか、、、ありがちな書き方をしていて。そしたら監督から「柔毛突起」を人に変換した脚本が上がってきた。。映画としてバッチリ成立してて、すごいっ!流石だな、と感じましたね。 


西ヶ谷:原作を映画化するという点で言うと、僕は、芥川賞って安易に映画化しちゃいけないと思っているんです。直木賞は別だけど。


Q:なるほど。それは何故でしょう?


西ヶ谷:芥川賞ってやっぱり純文学だから、文学としての価値基準がある。大衆性が必要な映画には向いてないというか、特性が違いすぎるから読者も失望させることになっちゃう。


僕もこの原作を最初に読んだ時は、「うわっ難しい」って思いました。でも沖田監督にやってほしいというのは分かるんです。おばあさんである桃子さんの世代を描くにはピカイチの監督なので。ただ彼は、基本的に人と人との芝居を撮る監督なのですが、一方でこの原作って、桃子さんがほとんど一人で喋ってるので。


それでも、「こういう原作があるんだけど、どう?」って沖田監督に言ったら、昨日母から偶然その原作を渡されたって言うんです。


竹内:これ、すごいエピソードですよね。


西宮:お母さんが既に読んでいらして、面白いから読んだらって、渡されたそうです。 



プロデューサー:西ヶ谷寿一氏


西ヶ谷:沖田監督自身、映画化は難しいと思いつつも、「ちょっと挑戦してみます」と脚本を書き始めてくれました。ただ、今まで彼がこれだけ悩んだことって無いですね。これまで何本か彼と一緒にやってますが、初めての経験でした。あまりに悩んでいたから、「無理だと思ったらやめてもいいよ」と言ったりもしたのですが、「もうちょっと考えてみます」って、続けてくれたんです。


そうしたらある日、突然ポンって脚本が送られてきた。それがもう、エンタメ度も加わったものすごく理想的な脚本になっていて、何も言うことはなかったですね。普通だったらその後に、予算に合うかどうかの検証などをプロデューサーはやるものですが、むしろこの脚本のまま映画化したいって思ったんです。


西宮:そうですね。初稿とは思えない完成度でしたよね。 


西ヶ谷:沖田くんって才能あるなって、今回一番思いました。


竹内:本当にすごいですよね。


西宮:沖田監督の脚本はいつもおもしろいのですが、今回はさらに進化してるって思いました。 


西ヶ谷:脚本はうまかったよね。


西宮:十年以上前の話ですが、沖田監督が当時所属していた制作会社のHPに、ブログみたいなのを書いていて、それがどうでもいい話なのに、ものすごく面白くて。元々文才のある方なんだと思いますが、今回も原作の大事なところをきちんと残しつつ、そこにご自身のお母さんの話を織り込むあたりが、すごく沖田さんらしくてよかったんですよね。



プロデューサー:西宮由貴氏


西ヶ谷:最初はピクサーの『インサイド・ヘッド』(15)や「白雪姫と七人のこびと」みたいなことですかねって、言ってたんですけど。でもそのままやると『インサイド・ヘッド』になっちゃうからなって悩んでて…、うーんうーんって言ってたところに、突然ポンって出してきた脚本だったから、いやもう驚きましたね。


西宮:自信が無さそうな雰囲気だったのに、出来上がってきた脚本は、文句のつけようのないものでした。原作は東北弁で書かれているので、最初読むのに時間がかかってしまって。

 

Q:そうですよね。私も時間がかかりました。


西宮:でも、沖田さんの脚本を読んでから原作を読み返したら、すごく読みやすく感じられて。原作にかなり変更を加えたのかと思いきや、大事なところはきちんと押さえていているので、読み終えたあとに感じるものは同じだったので、改めて尊敬しました。 


竹内:こちらからご相談した時に、お母様が既に原作本を渡されていたことも奇跡的ですよね。監督がすごく悩まれている時に、「お母さんの事だと思って書いてみたら」っていう、西ヶ谷さんのひと言も、最後に筆が進むきっかけになったのかなって思います。

 

西ヶ谷:本来だったらこの脚本に行き着くまでには、プロデューサー陣と相当喧々諤々することになるはずなんです。でも今回は1人の頭の中からスポーンって出てきたから、プロデューサーとしては何の苦労もなかったですね(笑)。


西宮:確かにそうですね。


西ヶ谷:普通は時間がかかるところなんですよ。『南極料理人』(09)なんかは、めちゃくちゃ時間かかりましたから。今回は本当にスポン!と出てきましたね。



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