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芥川賞&文藝賞受賞小説×田中裕子×沖田修一『おらおらでひとりいぐも』を作りだしたプロデューサーたち【CINEMORE ACADEMY Vol.12】

芥川賞&文藝賞受賞小説×田中裕子×沖田修一『おらおらでひとりいぐも』を作りだしたプロデューサーたち【CINEMORE ACADEMY Vol.12】

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プロデューサーの役割とは



Q:西ヶ谷さん、西宮さんのお二方が手がけられた映画って、個人的にとても好きでして、とにかく作品のクオリティが高くて、どれもちゃんと未来に残っていく作品ばかりだと思っています。今ふと思ったのは、作品自体ももちろんですが、どの作品も美術がいいですよね。広がりがある世界を作っている気がします。演出ではなくプロデュースをする立場として、一体どうすれば、そういった映画を作り続けることができるのでしょうか


西ヶ谷:30歳を過ぎてからこの業界に入ったのですが、自分が観たくて作りたいものは、「美術と衣装と音楽にこだわりがある」という映画でした。自分がプロデュースする作品の監督は新人が多かったので、一緒になってやってみたいスタッフの名前を挙げて映画を作っていました。


その中で安宅さんとの出会いは、『人のセックスを笑うな』(08:井口奈己監督)の時でした。この作品、美術監督は木村威夫先生だったんです。もう僕にとっては伝説の美術監督で、そこで木村先生が安宅さんを呼んできて、それが出会いでしたね。それからずっと一緒にやってる感じです。


西宮:我々は現場ではあまりできることがないので。信頼してお任せできるスタッフの方々を選んでお任せしています。 


西ヶ谷:スタッフも俳優さんと同じで、脚本から何をイメージ出来るかっていう能力だと思います。安宅さんが、美術打合せ(通称:美打ち)の時に出してくるプランが、脚本のイメージを超えてくれるのが、いつも嬉しくて。普段飲んだりするわけでも無いんですけどね。電話して、依頼して、受けてもらって、脚本を送って、それで、脚本の感想は言わずに、いきなり美打ちですごいのが出てくる。あぁ安宅さんでよかったなって思いますね。




西宮:予告編にも少し映っていますが、桃子さんの家の仏間の壁がなくなり、畳の参道が現れるシーン。あれも安宅さんのアイデアなんですが、図面を見た時、どんなセットになるのかわくわくしましたよね。


西ヶ谷:神様みたいな格好をした心の声“さとり先生”が出て来るシーンです。安宅さん、「ここの神様役って大御所俳優なんだよね」って、すごく張り切ってセットを作ってました。


Q:でも演じていたのは確か子どもでしたよね。


西宮:そうなんです(笑)。子どもになったので、どうやって近づいてくると神々しいか、となり、“さとり先生”が乗る筋斗雲みたいなものを作ってくれました。

 

Q:プロデューサーの役割としては、スタッフィングをしっかり固めることも重要なんですね。ちなみにプロデューサーと監督とで、意見を戦わせることはあったりするのでしょうか。


西ヶ谷:脚本作りの時は議論になります。それは監督とだけではなく、プロデューサー陣全員とですね。その際、どのシーンに予算をかけるかの話をするんです。予算はキャスティングとスタッフィングにも大きく関わって来るので、我々プロデューサーの仕事としては、そこはかなり大きなウェイトを占めていると思います。


Q:竹内さんが魅力的な原作を見つけ出し、その原作と親和性の高い監督を抜擢する。そして西ヶ谷さんと西宮さんが、それを具現化するためのチームを作る。それぞれのプロデューサーが、それぞれの立場で采配をしていく。面白いですね。


西ヶ谷:僕からは「おらおらでひとりいぐも」を映画化しようなんてチャレンジ過ぎて出てこないから、これも出会いですよね。無茶はするもんだと。


竹内:本当にありがたいですね。タイミングやいろんなことが本当に上手くいったんだなと思います。


Q:最後に、この映画についてのメッセージをお願いします。


西宮:桃子さんも、田中裕子さんも、原作者の若竹千佐子さんも、みなさんすごくチャーミングで、芯が強くてかっこいい。田中さん演じる桃子さんを観ていると、齢を重ねるのも悪くないって思える。そんな作品です。主人公は75歳のおばあさんですが、桃子さんの生き方や考え方は、若い方の心にも響くものがあると思うので、ぜひ幅広い世代の方々に見ていただきたいです。


あと、沖田さんの映画って、隣でクスクス笑っている人がいて、笑いや感動を共感しながら観た方が味わいが増すというか、面白い気がするので、ぜひ映画館の大きなスクリーンで観ていただきたいです。


竹内:ゆったりとした気持ちの時に、大きなスクリーンでこの映画を見てもらえると、沖田監督作品独特の呼吸とともに他にない体験をしてもらえるのかな、と。自分のことや親のこと、周りの人たちのことを考えたり、この先どう暮らしていこうかと考えたり、色々とヒントになると思います。 


西ヶ谷:この作品って、ジャズセッションみたいな作り方をした映画なんです。沖田監督は脚本を書いておきながら、どこに着地するか全く分かってない部分もあって、田中さんやみんなの意見を取り入れながら作っていきました。前述の「モーラステープの職人芸、再び」みたいに、イマジネーションが台本に書いてあるけど、実際これどうやってやるんだよってことも多くて、みんなで、ああしよう、こうしようってやってました。


これは完成した映画を見ても同じで、どこに着地するんだよ、そこかーとなると思います。そのライブ感をぜひ映画館で味わってもらいたいですね。



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プロデューサー:竹内文恵

1975年福井県生まれ。2000年アスミック・エース エンタテインメント株式会社(現アスミック・エース株式会社)入社。ゲーム・アニメ・邦画の宣伝に携わり、2004年フジテレビ深夜アニメ枠“ノイタミナ”の立ち上げに参加した後、TVアニメ『四畳半神話大系』(10/湯浅政明監督)、TVドラマ「鈴木先生」(11/河合隼人監督)、実写映画『3月のライオン 前編・後編』(17/大友啓史監督)劇場アニメ『映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ』(19/まんきゅう監督)等をプロデュース。現在製作中の劇場アニメ『犬王』(湯浅政明監督)『映画 すみっコぐらし』第2弾が2021年公開予定。


プロデューサー:西ヶ谷寿一

1970年静岡県生まれ。03年、東京テアトル入社。新人監督の発掘と育成を中心にプロデュースを始める。代表作は『人のセックスを笑うな』(07/井口奈己監督)、『南極料理人』(09/沖田修一監督)、『横道世之介』(12/沖田修一監督)、『私の男』(14/熊切和嘉監督)、『ディストラクション・ベイビーズ』(15/真利子哲也監督)、『素敵なダイナマイトスキャンダル』(18/冨永昌敬監督)、『旅のおわり世界のはじまり』(19/黒沢清監督)。最新作は『あのこは貴族』(21/岨手由貴子監督)。


プロデューサー:西宮由貴

1975年生まれ、東京都出身。2000年よりテアトル新宿に勤務。06年、東京テアトルの企画調整部に配属され、映画やドラマの製作に携わる。主な作品に、『南極料理人』(09/沖田修一監督)、『横道世之介』(13/沖田修一監督)、『私の男』(14/熊切和嘉監督)、『ディストラクション・ベイビーズ』(16/真利子哲也監督)、『ふきげんな過去』(16/前田司郎監督)、『素敵なダイナマイトスキャンダル』(18/冨永昌敬監督)、『旅のおわり世界のはじまり』(19/黒沢清監督)など。



取材・文:香田史生

CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。




『おらおらでひとりいぐも』全国公開中

(c) 2020 「おらおらでひとりいぐも」製作委員会

配給:アスミック・エース

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