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『ヤクザと家族 The Family』に詰め込んだ信念と美意識。そして、A24挑戦の夢――藤井道人監督が語る、過去・現在・未来【Director's Interview Vol.104】

『ヤクザと家族 The Family』に詰め込んだ信念と美意識。そして、A24挑戦の夢――藤井道人監督が語る、過去・現在・未来【Director's Interview Vol.104】

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映像イメージへのこだわり。「誰でも楽しめる」を目指して



Q:藤井監督の作品を拝見すると、ビジュアルのセンスがずば抜けていると感じますが、本作においては、脚本を書いている段階で映像のイメージが出来上がっていたのでしょうか。


今回は『けむりの街の、より善き未来は』のセルフリブートというメタファーが決まっていて、「煙」を使ってテーマを表現したいというのは最初からありましたね。


たとえばタバコってどんどん排除されて、クリーンになってきたじゃないですか。そういった形で、徐々に煙がなくなっていく世界観にしたかったので、クランクインする前から「工場地帯を探してほしい」とリクエストしていました。その結果、静岡県の沼津に落ち着きましたね。


撮影監督の今村圭佑とは『けむりの街の、より善き未来は』も一緒に撮っているから、「リベンジマッチだ」「わかった」といった感じで、共通認識がありました。


Q:本作はそれぞれの章で「煙に巻く」「狼煙を上げる」「煙たがられる」がビジュアルテーマとしてあったと伺いましたが、どこからこんな秀逸な表現が生まれてきたのか、ぜひ知りたいです。


藤井:なんでしょうね……(考え込む)。やっぱり、映画や映像が好きなところが大きいですかね。例えば、いまでも鮮烈に覚えているカットは、『BIUTIFUL ビューティフル』(10)のハビエル・バルデムが歩いているときの鳥たちですし、そういった「モチーフ」にすごく惹かれるんです。


(c)2021『ヤクザと家族 The Family』製作委員会


そういう一個一個の表現をしっかり描けば、言葉で語らなくて良いことが多いんじゃないかと思っています。やっぱり俳優さんって皆さんうまいから、どんなセリフでも自分の言葉に変えてきれいに聞けるようにしてくれるんです。でも、そこに甘んじることなく、映画を総合芸術として、映画を愛している人にも、年に1回映画を観るかどうかという人にも広く、僕は届けたいんです。どの世代の人も楽しめるように意識していて、それはきっと「映像的に楽しめるもの」なんですよね。


Q:『デイアンドナイト』では「風」、『新聞記者』では「落ち葉」と、作品ごとにビジュアルイメージがしっかり決まっているのも、藤井監督作品ならではですね。


藤井:『デイアンドナイト』は「空気を読む」ということに対する嫌悪感や拒否反応から、「風」というイメージが生まれましたね。あとは、自分の脳内に点在させておくことが大事かもしれません。興味を持つ風景や会話、事象を脳内に散らしておいて、1個作品を作るときにつないでいく。うまく結びつかなかったら解体して、その繰り返しですね。


Q:そのスタイルには、理詰めか感覚か、どちらでたどり着いたのでしょう?


藤井:感覚ですね。2011年に超貧乏で売れないし食えないし、となっていたときに『埃』という短編を撮ったのですが、それはプライド(誇り)とダスト(埃)をかけて作りました。その作品が評価を受けたときに、自分だけの閉じた感覚だと思っていたものが、意外と伝わるんだ、他人と共有できるのは視覚的な効果なんだと感じたんです。


「好き」って100回言うよりも、「好きなもの」を1個ちゃんと撮ることに喜びを見出したのは、ちょうど10年前ですね。




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