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映画に出てくるお気に入りのクルマ【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.6】

映画に出てくるお気に入りのクルマ【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.6】

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『ハリー・ポッターと秘密の部屋』のフォード・アングリア



 

 『 ハリー・ポッターと秘密の部屋』(2002年)に登場する空色のフォード・アングリアは、主人公ハリーの親友ロン・ウィーズリーの父親によって魔法で改造されて空を飛べるようになったフォード・アングリア105Eだ。飛行だけでなく、透明ブースターなるものを押すことで車体を透明にもできる万能なメカだが、違法改造なのでウィーズリーおじさんはあとでお咎めを受ける。


 劇中ではいじわるな叔母一家によって部屋に閉じ込められていたハリーが、フォード・アングリアに乗ってやってきたウィーズリー兄弟たちに救出され、魔法の世界へと帰還する。不思議で魅力的なウィーズリー家で過ごした後、魔法学校に向かうホグワーツ特急に乗れなかったハリーはロンとともに再びフォード・アングリアに乗り込み、スコットランドの山々を越えてホグワーツ城を目指す。空を飛びながらホグワーツ特急と並走するシーンは特に印象的である。


 魔法の世界でありながら空飛ぶ車という一見SF的なものが登場するのもおもしろいが、実はこのフォード・アングリアは作者J・K・ローリングの思い出と深く結びついている。


 ジョアン・ローリングがティーンエイジャーの頃、彼女は多発性硬化症になった母親が少しずつ病魔に侵されていくのを目の当たりにしなければならなかった。暗く辛い日々が続くが、一方でルーモスの呪文のように光を差してくれるものもあった。18歳のときに生涯の友となる人物と出会ったのだ。


 彼の愛車は青いフォード・アングリア。ジョアンの家の前に乗りつけては、彼女をドライブに誘い、街に繰り出したという。ローリングを息の詰まりそうな日常から外の世界に連れ出してくれた彼が、空飛ぶフォード・アングリアで孤独なハリーを助けに来たロンの姿と重なるのは偶然ではない。その彼はロン・ウィーズリーのモデルそのひとであり、件の車が活躍する『秘密の部屋』の原作の献辞は彼に当てられている。


 映画に登場する車は、その車種であることに理由や物語があるから楽しい。現実に人々が使ってきた普通の車が、ときに改造され、ときにそのままの形で空を飛び、全く別のキャラクターに変身する。バットモービルやデロリアンのようにかっこいいメカもあるけれど、物語を与えられた普通の車も欠かせないし魅力的だ。


『ハリー・ポッターと秘密の部屋』を今すぐ観る



イラスト・文:川原瑞丸

1991年生まれ。イラストレーター。雑誌や書籍の装画・挿絵のほかに映画や本のイラストコラムなど。「SPUR」(集英社)で新作映画レビュー連載中。

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