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壊れゆく中国に生きる人々の、心を動きを見つめたい『帰れない二人』ジャ・ジャンクー監督【Director’s Interview Vol.38】

壊れゆく中国に生きる人々の、心を動きを見つめたい『帰れない二人』ジャ・ジャンクー監督【Director’s Interview Vol.38】

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時間によって変化する男と女の関係



Q:この映画の主人公、ビンとチャオもそうですが、あなたが描く人物は“定住できない人々”であるように思えるのですが、この点はいかがですか?


ジャンクー:社会が大きく変化していくと、流浪の人々も増えていきます。自分の夢を追いたい人もいれば、権力を手にいれたいと考える人もいる。いい生活を望む人もいます。この映画のビンとチャオに関していえば、彼らは昔の価値観を引きずっていますが、それでいて現代を生きる人物でもある。古さと新しさを半分ずつ持っています。ただ、ふたりの考え方はまるで違います。男性のビンはどんなに世の中が変わっても、メインストリームを歩きたいと思っていて、そのせいでつまずきます。一方、女性のチャオは自分の価値観を大事にしていて、自分が守ってきた信念に従って生きていきます。


Q:それは男と女の違いともいえますか?


ジャンクー:男は社会性を好むので、競争や戦いを選びますが、女性はそうではないと思います。映画の中で最初は男が強がっていますが、結局は弱い人物であることが分かります。一方、女性は弱そうに見えたのに、だんだん逞しくなっていく。ふたりは全く逆の方向にいきます。男性の監督としてこうした点も考えながら脚本を書きました。男性は競争の中に飛び込みますが、結局は消耗していくわけです。しかし、女性は家を大事にしていて、自分の信念で生きていくのだと思います。




Q:チャオ・タオは長年あなたの映画でヒロインを演じてきましたが、今回の演技はこれまでのベストと思えるほど素晴らしかったです。


ジャンクー:私も彼女の演技が今までで1番良かったと思います。彼女は持てる力のすべてを出してくれました。とても想像力が豊かな女優です。一例をあげると、ペットボトルの使い方です。『長江哀歌』を基にした人物なので、今回のヒロインもペットボトルを持った方がいい、と彼女が提案してくれました。それが大きな効果を上げています。途中で出会った男の手にそれを持たせる場面、また、自分をだました女をそれで殴る場面など、この小道具のおかげで映画がおもしろくなっています。想像力を駆使して、今回の役を演じてくれたところが素晴らしいと思います。




Q:恋人のビンを演じる男優、リャオ・ファンも印象的な演技を見せています。『薄氷の殺人』などで知られていますが、彼を起用した理由も教えていただけますか?


ジャンクー:以前から一度、一緒に映画を作りたいと思っていました。すばらしい演技力を持つ男優です。この映画では若い時代から中年まで演じる必要がありましたが、彼にはそれができると思っていました。ひとつ心配だったのが言葉の問題で、ここでは山西省の言葉を話さなくてはいけないのですが、彼自身は話せませんでした。そこで3か月間、特訓を受けたのです。



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