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鬼才、井口昇が作りあげた傑作青春映画『惡の華』。原作と完全にシンクロした監督の思いとは?【Director’s Interview Vol.42】

鬼才、井口昇が作りあげた傑作青春映画『惡の華』。原作と完全にシンクロした監督の思いとは?【Director’s Interview Vol.42】

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神からのお告げ「ブルマのシーンから撮った方がいい…」



Q:撮影の中で一番印象に残っているシーンはありますか?


井口:実は当初の予定では、初日の撮影は玉城さんと伊藤さんが土手の上で会話をするシーンだったんです。でも雨が降ってしまって、そのシーンが撮れなくなった。じゃあ今日やれる他のシーンは何だ?てなった時に、春日が佐伯さんのブルマの匂いを嗅ぐシーンしかない。初日からいきなりそんなシーンでいいのか?と思ったんですけど、でもやってみようと。


で、やってみたら、あのブルマのシーンで僕は春日という人物像をつかむことができたんです。ブルマの匂いを嗅ぐまでの春日の表情を撮っていると、「ああ、もうこういう空気感、演技のテイストにすればいいんだ!」と。そこで僕は作品全体をつかむことができたので、これは神様からの「最初にブルマを撮った方がいいよ」というお告げだったんじゃないかなと(笑)。そこからやったら、あと楽になるよ、という風に言われたんじゃないかなと思ってますね。




Q:雨が降ったのは、まさに天の配剤ですね!


井口:導かれましたね、ブルマに(笑)


Q:・・・ちなみになんですが、ブルマって今でもあるんですか?


井口:僕は今回この映画をやってからすごくブルマに詳しくなったんです!時代とともにブルマは減っていったんですが、2005年にブルマは廃止されたんですよ。それ2005年を中学時代に設定して、そこから高校生時代が何年になるかというと、今から10年前なんですね。映画『惡の華』は全部ブルマ合わせで年代設定をしているんです!


Q:なるほど、ブルマが出てきてもおかしくない時代に物語を設定しないとダメだと(笑)


井口:もう僕らはブルマに振り回されてこの映画を撮ったんだと。ブルマ合わせですべては決まっていった(笑)


Q:原作と映画ではラストが少し異なります。原作では春日の未来をもう少し具体的に予感させて終わりますが、映画はもっとシンプルな形になっています。


井口:映像で見せずに想像させる、見ている人が色々なことを感じてもらえればいいなと思ったんですね。試写をして面白かったのがラストの感じ方も人によって違うんですよね。多くは「救いのあるラストでほっとしました」という意見なんですが、僕の知り合いの女の子は「こんなに救いのないラストにしちゃったんですね」って言うんですよ。「私はショックでした、こんなに絶望的な終わり方の映画を初めて見ました」と。何がそんなに絶望的なの?て思ったんですけど(笑)。


この『惡の華』という作品がすごく特別な作品だなって思えるのは、映画を見た人が100人いたら100人の『惡の華』が存在していると思えることです。全てのシーン、ラストの解釈とか、あと仲村さんが何を感じたのか、何を考えていたのか。もういろんな解釈があるので、本当にこちらで意味を限定しない方がいいんじゃないかなと思っています。




Q:井口監督は、10代の頃「自分は変態なんじゃないか」と悩んでいたそうですが、今の中学生や高校生にも同じような思いを抱えている子がいて、この作品に触れるかもしれませんね。


井口:僕は本当に若い人たちに見て欲しいです。特に思春期の頃って、ちょっとでも自分の性癖が他の人と違ったり、話が合わないと孤独になるじゃないですか。「僕はここにいて、いいんだろうか?」と思ってしまう。そういう人たちが SNS が発達して、より一層孤独な気持ちになっていると思うんです。そんな中でこの作品が、どこかで若い人たちの救いになればいいなと思います。


押見先生ともそういう話をしていたんですけど、自分たちの少年時代って元気な青春ドラマよりも、暗い青春ドラマとか、悲惨なドストエフスキーとかを無理して読んで、悶々とした人が悶々としてるだけの作品とかに触れて、実はああいうものが救いになっていたんです。そういう作品がここ最近は少なかったんじゃないかと思ったんですね。だから、はみ出した人たち、自分をマイノリティだと感じる人たちにとって救いになる作品になればいいんじゃないかなと。


僕もやっぱりマンガ「惡の華」を読んで一種の救いを感じたので、それはそのままこの映画で、観客の方に同じ感覚を感じてもらえるといいなと思っています。


Q:最後に、この映画を見て欲しい方々にメッセージお願いします。


井口:僕にとって『惡の華』は念願の作品です。これを撮れたら映画監督を辞めてもいい、という気持ちでいたので、本当に一人でも多くの方に見てもらいたいです。あとこの原作は実は10代の女の子に人気が高いんです。映画自体に「変態」という言葉をわざわざキーワードで使っていますけど、見た人たちからは「真っ当な青春映画ですね」って言ってもらうことが多いので、食わず嫌いにならず、10代の少年少女に是非見てもらいたいなと思っております!



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監督:井口昇

1969年6月28日生まれ、東京都出身。学生時代に撮った8ミリ作品『わびしゃび』がイメージフォーラムフェスティバルで審査員賞を受賞。自主制作の『クルシメさん』がゆうばり国際ファンタスティック映画祭オフシアター部門で奨励賞を受賞し、以降『恋する幼虫』(03)『猫目小僧』(05)などを監督。2007年には『片腕マシンガール』が海外および国内でカルト的な人気を博し、数々の国際映画祭に出品。30カ国以上で公開されその名を世界中に轟かせた。2011年には『電人ザボーガー』がロングランヒット。同作でアメリカ・テキサス州の映画祭、ファンタスティック・フェストでファンタスティック部門監督賞受賞を果たす。新作を発表する度に海外から招待が殺到する程、世界中で熱狂的ファンを生み出しており、北野武、三池崇史に並ぶ人気と知名度を誇っている。主な監督作品に、『ヌイグルマーZ』(14)、『ライヴ』(14)、『スレイブメン』(17)、『ゴーストスクワッド』(18)、伊藤健太郎も出演していた『覚悟はいいかそこの女子。』(18)など。



取材・文: 稲垣哲也

TVディレクター。マンガや映画のクリエイターの妄執を描くドキュメンタリー企画の実現が個人的テーマ。過去に演出した番組には『劇画ゴッドファーザー マンガに革命を起こした男』(WOWOW)『たけし誕生 オイラの師匠と浅草』(NHK)『師弟物語~人生を変えた出会い~【田中将大×野村克也】』(NHK BSプレミアム)。





『惡の華』

TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー中

配給:ファントム・フィルム

(c)押見修造/講談社 (c)2019映画『惡の華』製作委員会

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