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僕が願うのは、あらゆる人間を排除しないこと。『エンテベ空港の7日間』ジョゼ・パジーリャ監督【Director’s Interview Vol.43】

僕が願うのは、あらゆる人間を排除しないこと。『エンテベ空港の7日間』ジョゼ・パジーリャ監督【Director’s Interview Vol.43】

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願うのは、あらゆる人間を排除しないこと



Q:エンテベの事件を扱った過去の映画はご覧になりましたか?


パジーリャ:三本あるうちの一本は観た。ハリウッドがテレビ用に製作したやつをね。ドキュメンタリーも観たよ。ただ、それらの作品は主にミリタリーアクション的な視点で襲撃作戦がどうやって遂行されたのかをメインに描いていた。でも僕たちの狙いは、ハイジャック犯やラビン首相、シモン・ペレスの視点からこの事件を描き直すことだった。


Q:今回の映画では、イスラエルの英雄として尊敬されているヨナタン・ネタニヤフの扱いが大きく変わりましたね。現首相のベンジャミン・ネタニヤフはヨナタンの実弟で、この映画の描写に対して不満があると思うんですが、イスラエルからは何かリアクションがありましたか?


パジーリャ:この映画では、かなり注意深く、すでに大昔とも言える事件を検証したし、ヨナタンの最期については間違いないと確信している。ヨナタンは、伝えられているような英雄的な活躍をする前に亡くなったんだ。僕たちは実際に作戦に参加した三人の元兵士に協力してもらい、そのうちの二人は、空港のターミナルに最初に突入をしてハイジャック犯を射殺した人たちだった。彼らに撮影現場に付いてもらって、彼ら自身の目で見たことを教えてもらったんだ。




彼らはネタニヤフが撃たれた場所も正確に示してくれた。突入シーンの撮影では、突入部隊にいたアミールという元兵士がずっと僕の真横に付いていてくれていた。だからネタニヤフ首相がこの映画の描写を気に入らなくても、彼のためにできることは何もない。それは事実が気に入らないっていうことだからね。


Q:テロリスト側の心情にフォーカスしたことで、この映画をテロリスト擁護だと批判をする声もあります。作品に対するネガティブな反応についてどう思われていますか?


パジーリャ:確かに大勢の人がこの映画を嫌っている。僕たちが、犯人にも彼らなりの考えがあると描いたことに対して激しい拒否反応があったんだ。でも人によっては、自分の先入観を見つめ直したり、彼らもひとりの人間だったんだと理解するきっかけになれると思っている。でも、ある種の人たちはこの映画のことが我慢ならないんだ。


改めて僕たちが注意しないといけないのは、言葉の使い方だね。もし誰かのことを「テロリスト」呼ばわりすれば、その人は即座に人間として扱われなくなる。興味深いのはこの言葉がすっかり政治的に使われてしまっていること。アメリカはアフガニスタンの戦士をテロリストと呼ぶが、アフガニスタン人をドローンで殺害したアメリカは決してテロリストとは呼ばれない。でも、そこにどんな違いがあるっていうんだ?


「テロリズム」という言葉は政治的な意味合いを背負わされて、誰かを排除するための言葉になってしまっている。僕が願うのは、あらゆる人間を排除しないこと。例えそれがハイジャック犯であってもね。彼らは邪悪で間違っているかも知れないが、僕は彼らの考えを理解できるように努めたいと思う。




Q:前衛舞踊のシーンが非常に印象的に使われていますね。


パジーリャ:あれはイスラエルではすごく有名な、バットシェバ舞踊団のダンスで、さまざな象徴的な意味があるんだ。ダンサーたちは伝統的な衣服を着て、まるで自分たちを罰しているかのように不自由な動きで踊る。そしてダンスが進むにつれて、ひとりずつ服を脱いでいく。でも、ひとりのダンサーだけはみんなに付いていけず、何度も椅子から転げ落ちるんだ。


僕はあのダンスをひとつのメタファーとして解釈した。もし自分たち以外の誰かと共存したいのなら、自分たちの信念だと思っているものを一旦捨てる必要があるとね。でもイツハク・ラビン首相はパレスチナとの和平交渉を進めようとしたことで暗殺されてしまった。彼は古い考え方に殺されたとも言える。だから僕は、このダンスがこの映画にぴったりだと思ったんだ。


Q:前作『ロボコップ』を撮った時にはかなりスタジオから創作の自由を制限されてしまったと言われています。今回はパーティシパントメディアとワーキングタイトルの共同製作ですが、前作よりも自由を得られましたか?


パジーリャ:今回の映画も難しいといえば難しかったよ。『ロボコップ』の時とまた違う意味合いでね(笑)。『ロボコップ』には二つの大きなスタジオ(MGMとコロンビアピクチャーズ)が関わっていて、リスクを負うことを嫌っていた。結局はお金の問題なんだけど、スタジオの重役たちが安全だと思うやり方を通すのも彼らの仕事だったんだ。彼らはベストを尽くそうとしたけれど、巨額の製作費がかかるだけにリスクを最小限に抑えようとしていたんだ。


『エンテベ』の困難は、もっと政治的なことだった。イスラエルとパレスチナに関する映画をどうやって誰も怒らせることなく完成させるか? 見方によっては滑稽だよね。誰かを怒らせたくないなら、パレスチナ問題の映画なんか撮らない方がいい(笑)。確かにそういう問題はあったけれど、映画作りにおいては普通のことだし、苦にしていたわけじゃないよ。映画は誰かひとりのものではない。出資者もいれば、それぞれが違う目的をもって一緒に映画を作ることもある。特にハリウッドではそういう映画の作り方をしているからね。


エリート・スクワッド』二部作や『バス174』の時は、僕が製作費を集め、僕が監督でありプロデューサーであり脚本家だったから、自分がやりたいようにやれた。ハリウッドでは、「ナルコス」ですら、ネットフリックスは大きな自由をくれたけど、それでも彼らと方針についてずいぶん話し合った。僕だって常に正しいわけじゃないし、独裁者のように振る舞いたいわけじゃない。ただ、君の質問の本当に正直に答えるなら、確かに『ロボコップ』も今回の映画も一から十まで好き放題に作れたわけじゃない。議論を重ねた上で完成した形になったんだ。


Q:監督は新作を作る度に、敵を増やしているような気がして心配してしまいますが、これからも刺激的な作品を期待しています!


パジーリャ:ありがとう。応援してくれて、ありがとう!(笑)



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監督:ジョゼ・パジーリャ

1967年8月1日、ブラジル生まれ。リオデジャネイロで起きたバスジャック事件を追ったドキュメンタリー、『バス174』(02)で長編監督デビュー。同作では製作も兼務し、エミー賞とピーボディ賞を受賞した。さらに脚本・監督・製作を担った実録風警察映画『エリート・スクワッド』(07・未)と、続編『エリート・スクワッド ブラジル特殊部隊BOPE』(10・未)で高い評価を獲得、興行的にも成功を収めた。第1作目は第58回ベルリン国際映画祭で、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(07)を抑え金熊賞に輝いている。2014年のジョエル・キナマン主演版『ロボコップ』で、アメリカ映画を初監督。また、リオを舞台にした短編オムニバス作『リオ、アイラブユー』(14/ブラジル映画祭2015での上映タイトル:『リオ、エウ・チ・アモ』)の1話の監督を務めた。ゴールデングローブ賞にノミネートされたNetflixのドラマシリーズ「ナルコス」(15~17)では製作総指揮を務め、パイロット版を含む2エピソードの監督も担当。2018年には、実際の汚職事件に着想を得たNetflixのドラマシリーズ「メカニズム」(18~)の企画・製作を担当した。ブラジルの大手新聞「オ・グロボ」紙の解説者でもある。



取材・文:村山章

1971年生まれ。雑誌、新聞、映画サイトなどに記事を執筆。配信系作品のレビューサイト「ShortCuts」代表。 





『エンテベ空港の7日間』 

10/4(金)、TOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開

(c)2017 STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC. All Rights Reserved

配給:キノフィルムズ/木下グループ

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