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【ミニシアター再訪】第2回 1981・・・その2

【ミニシアター再訪】第2回 1981・・・その2

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新宿ミラノビルの中の画期的な劇場



「おひさしぶり!」


 中央線の荻窪駅で、かつて新橋のビルで聞いていた声が聞こえてくる。


 80年代にヘラルド・エースで映画宣伝を担当していた寺尾次郎さんだ。今は字幕翻訳家となり、最近では『アーティスト』(11)、『ル・アーヴルの靴磨き』(11)などの話題作も手がけている。そんな寺尾さんと2013年1月に再会した。


 新橋の宣伝部で初めて会ったのは80年の暮れで、その頃の彼は『ジェラシー』(79)というニコラス・ローグ監督の英国映画の宣伝を担当していた。


 「大学を出た後、映画が好きだったので、ヘラルドに入りました。『ジェラシー』は初めて宣伝を任された作品で、すごく思い入れがあります。昨年(2012年)、フィルムセンターで上映されたので久しぶりに見たんですが、今も大好きな映画です」


 宣伝マン時代を寺尾さんはそんな風に語り始めた。この映画は81年12月にオープンするミニシアター、「シネマスクエアとうきゅう」の記念すべき最初の作品に選ばれるが、そこにたどりつくまでの道のりは平坦ではなく、寺尾さんは1年という長い時間をこの映画と共に過ごすことになる。


 当時、『ジェラシー』は一般受けしない作品と考えられていた。過去と現在の時制がバラバラで、まるでジグソーパズルのように複雑な映像構成だったからだ。物語も屈折していて、冬のウィーンを舞台に死と狂気がからまった破滅的なラブストーリーが展開する。


 主人公は年の離れた夫と別れ、自由に生きることを望む若い女性(テレサ・ラッセル)で、精神分析医である彼女の恋人(アート・ガーファンクル)は嫉妬ゆえに彼女を追いつめる。そして、自殺未遂を図った彼女に残酷な仕打ちをする。やがて、ハーヴェイ・カイテル扮する刑事がふたりの空白の時間について調べ始める。



◉シネマスクエアとうきゅうのパンフレットは「シネマスクエアマガジン」と銘を打ち、雑誌の形態を思わせる通巻号数が振られていた 。


 劇中にグスタフ・クリムトやエゴン・シーレの絵画、キース・ジャレットやトム・ウェイツの音楽などを散りばめ、フロイトの心理学の要素やウィリアム・ブレイクの詩も登場。観客の知的好奇心をくすぐる濃密な作品だったが、こうした個性的な映画にふさわしい映画館がその頃の日本にはなかった。



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