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【ミニシアター再訪】第4回 六本木からのNew Wave・・・その1 シネ・ヴィヴァン・六本木 前編

【ミニシアター再訪】第4回 六本木からのNew Wave・・・その1 シネ・ヴィヴァン・六本木 前編

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西武の新しい挑戦、シネ・ヴィヴァン・六本木



 ビルを作ったのは西武流通グループ(のちのセゾングループ)で、当時の西武は文化事業に力を入れることで企業全体のイメージアップをはかり、文化的にも貢献していた。本拠地の池袋の西武デパートにセゾン美術館や多目的ホール、スタジオ200があり、他では実現できなかったイベントも行われていた。また、80年代にスタートした西武系の出版社、リブロポートではデザインや紙に凝った豪華な美術関係の本が次々に出版された(私も90年代にここから「カルトムービー・クラシックス」という映画の翻訳本を出した)。


 当時の西武の勢いは遂に映画界にもおよび、84年には映画の配給会社、シネセゾンもスタートさせるが、前年に六本木に作られたのがWAVEの中のシネ・ヴィヴァン・六本木だったというわけだ。


 最初に上映されたのはジャン=リュック・ゴダール監督の『パッション』(82、配給=フランス映画社)だった。ゴダールは60年代に『勝手にしやがれ!』(59)や『気狂いピエロ』(65)などを作り、フランスの“ヌーヴェル・バーグ(新しい波)”と呼ばれた映画ムーブメントを代表する才人として多くのファンを獲得した。その後、ブランクがあったが、79年に『勝手に逃げろ/人生』(79)で商業映画に復帰して、海外では再び高い評価を得ていた。しかし、日本ではすぐには公開されず、『勝手に逃げろ/人生』の後に撮った『パッション』の方が先に上映されることになった。


 『パッション』は自分にとっての“理想の光”を探し求める映画監督が主人公で、彼は美術の名画を映画の中で生身の人間を使って再現しようとする。ドラクロワの「民衆を導く自由の女神」、レンブラントの「夜警」、ゴヤの「裸のマハ」などのイメージが劇中では次々に再現され、その映像の美しさにまずはひきつけられる。イザベル・ユペールやハンナ・シグラらが、監督の思いを託すヒロインとして登場するが、他のゴダール作品同様、ストーリーはあいまいで、主人公たちの観念的な会話のやりとりが写されていく(「物語は作る前に生きるものだ」「影は存在しない。光の反映でしかない」といったセリフが登場する)。そして、バックに流れるクラシック音楽の数々が、時にはセリフ以上に意味を持つ。ラヴェルやフォーレ、ベートーヴェン、モーツァルトなどの名曲に彩られた映画でもある。


 絵画とクラシックの名曲が重要な要素となった先鋭的な作風の映画。そんな『パッション』の個性は、WAVEというカルチャー・ビルのコンセプト=“音と映像の新しい空間“にぴったりだった。


 ゴダール作品以外にも、アンドレイ・タルコフスキー(『ノスタルジア』〈83〉)やテオ・アンゲロプロス(『シテール島への船出』〈83〉)など、映像詩人と呼ぶのがふさわしい、知的で、哲学的な作風の監督たちの映画が次々に上映され、この映画館の先鋭的な個性を作り上げていく。



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