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【ミニシアター再訪】第5回 六本木からのNew Wave・・・その2 シネ・ヴィヴァン・六本木 後編

【ミニシアター再訪】第5回 六本木からのNew Wave・・・その2 シネ・ヴィヴァン・六本木 後編

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『ミツバチのささやき』が動員記録を作る



 塚田さんは話を続ける。


 「ゴダールや〔アンドレイ・〕タルコフスキー、それに90年代はロシアの〔セルゲイ・〕パラジャーノフ監督の映画祭などもヒットしました。難解なのに、どうしてこういう映画が当たるのか、とNHKのニュースで取材されたこともあります」


 当時と現在との違いについてはこんな風に考えている。


 「あの頃はちょっとおしゃれをして、ちょっと背伸びする映画を見に行くという風潮があって、その層をあおれば観客を集めることができたんです。“知らないことが時代遅れ”と思われるのが、いやだったんでしょう。今の若い人は知らないことは当たり前で、自分に合うか、合わないか、ということで選別していき、自分が分からないものは要らないと考えます。でも、あの頃は観客の知的好奇心をあおることで商業的に成立しました」 


 動員記録を作ったのが85年に日本公開されたスペイン映画『ミツバチのささやき』(73)だった。めったに新作を撮らないことで知られる伝説の監督、ヴィクトル・エリセの作品で、製作から12年遅れで日本の土を踏んだ。スペイン内戦後の40年代が舞台で、その頃からフランシスコ・フランコの独裁政権が始まっている。 


 31年のアメリカのホラー映画『フランケンシュタイン』を見て心を奪われる6歳の多感な少女の心理に当時の国の情勢を託しつつ、その日常生活が幻想的な映像も織り交ぜながら描かれていく。純粋さと奇妙な妖気をあわせ持つ少女役のアナ・トレントも話題を呼び、シネ・ヴィヴァンでは12週間上映で、6400万円(観客動員数は4万8000人)という興行成績を打ち立てた。 


 「映画館は185席で、週のアベレージはまだ落ちていなかったので、本当はもっと上映できたと思います。ただ、〔グループ企業の〕西友で作った『火まつり』(85、柳町光男監督)を上映するため、映画館をあけなくてはいけなくなり、12週で上映が終わったんですが、あのまま上映していれば7000万円はいったかもしれません。僕自身も特に思い入れのある作品で、自分の娘にアナを漢字にした名前〔有那(ありな)〕をつけたほどです」 


 『ミツバチのささやき』は多くの熱狂的なファンを生んだ作品で、今も伝説的なミニシアター映画の一本となっている。ただ、個人的にはこの監督とは強烈な“マイナス相性”のようで、見ていると体中の血がヒラヒラと逆流していくような生理的な反応が出て、正常な感覚を保てなくなる。


 彼が後に撮った10分の短編(『10ミニッツ・オールダー/人生のメビウス』〈02〉の中の「ライフライン」)なども、映像の完成度はすごいと思いつつ、やはり体内の血が足から頭に向かって流れて行くような感覚に陥り、すごく辛かった。逆に考えれば、このように特異な反応を引き起こすほどに、すごい才能を持つ監督ともいえるだろう。



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