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【ミニシアター再訪】第10回 “渋谷劇場”の幕開け、ミニシアターの開花・・・その5 好奇心をくすぐるユーロスペース 中編

【ミニシアター再訪】第10回 “渋谷劇場”の幕開け、ミニシアターの開花・・・その5 好奇心をくすぐるユーロスペース 中編

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 他の劇場なら公開をためらう過激な映画も公開してきた渋谷のユーロスペース。その小さな映画館は87年に最大の挑戦に挑んだ。原一男監督の衝撃のドキュメンタリー『ゆきゆきて、神軍』の上映を引き受けたのだ。


 戦争の深い闇を暴こうとする元日本兵、奥崎謙三の姿を追った凶暴な傑作で、今でも(特に終戦記念日になると)定期的に上映されている。当時の危険な(?)公開顛末をユーロスペースの北條誠人支配が振り返ってくれた。


※以下記事は、2013年~2014年の間、芸術新聞社運営のWEBサイトにて連載されていた記事です。今回、大森さわこ様と株式会社芸術新聞社様の許可をいただき転載させていただいております。


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危険を覚悟して



 一本の映画がかかることで、その劇場の運命が変わることがある。


 1987年8月1日、渋谷のミニシアター、ユーロスペースで『ゆきゆきて、神軍』(原一男監督)が封切られ、大反響を呼んだ。


 「確かにあの映画はユーロを変えましたね。この映画で渋谷のアングラ劇場から全国区の劇場になりました。今でも『神軍』のユーロといわれますからね」この劇場の北條誠人支配人は、当時のことをそう振り返る。彼は87年以来、26年以上に渡って支配人をつとめている。


 『ゆきゆきて、神軍』は60代前半の元・日本軍兵士、奥崎謙三をめぐるドキュメンタリーである。彼は昭和天皇にパチンコ玉を発射した罪で刑務所に入ったこともある。


 奥崎は激戦をきわめたニューギニアの36連隊に所属して、戦争の悲惨な状況を身を持って体験。帰国後は昭和天皇の戦争責任を厳しく追及するため、前述の事件も起こした。この事件の前には別の殺人事件で13年以上に渡る刑務所暮らしを送ったこともある。


 そんな彼は「田中角栄を殺す」と大きな文字で書かれた車に乗って、過激なコメントを拡声器で放送する──「無知・無理・無責任のシンボルである天皇に私はパチンコ玉を発射しました」。さらにパトロール中の冷静な態度の警察を挑発する──「人間なら腹を立ててみよ!」


 言葉だけではなく、時には暴力さえもいとわない奥崎は“歩く爆弾”だ。彼はニューギニアで不可解な死を遂げた同じ部隊の兵士たちのことが頭を離れない。表向きは戦死となっているが、そうとは信じがたい。その真相を探るため、彼は兵士の遺族を従え、元上官や伍長の家を訪ね歩く。


 彼の突然の訪問に困惑しながら、彼らは世間体を取りつくろうが、奥崎の執拗な追及によって40年前の出来事が明かされる。人が人ではいられなかった戦場の(食をめぐる)おそるべき事実に観客としては言葉を失う。封印された戦場の闇へと突き進む奥崎の存在感もすごいが、彼を追い続ける原監督の演出にも圧倒される。


 いま、振り返ると、“ミニシアター史上、最も危険な映画”の一本であったこの作品の上映にユーロは挑戦したのだ。






◉『ゆきゆきて、神軍』のチラシのコピー(上下)。ポップな感覚と不穏さが共存するデザインは映画の雰囲気を見事に表している



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