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【ミニシアター再訪】第11回 “渋谷劇場”の幕開け、ミニシアターの開花・・・その6 好奇心をくすぐるユーロスペース 後編

【ミニシアター再訪】第11回 “渋谷劇場”の幕開け、ミニシアターの開花・・・その6 好奇心をくすぐるユーロスペース 後編

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 ミニシアターとシネコンの違いは何だろう? そのひとつの答えはこのインタビューの中にある。


 渋谷の老舗劇場のひとつ、ユーロスペースの北條誠人支配人は、ミニシアターは監督やファンを育てる場所と考えている。


 80年代~90年代にかけて登場した多くのミニシアターには、お気に入りの監督がいて、新作が来るたびに自分の劇場でかけていた。そうすること監督が育ち、彼らを応援する観客も育っていた。


 そんな思い入れのある“ユーロの御三家”ともいうべき3人の監督について語る。


 近年はミニシアター拡大公開が行われるようになり、同じ映画を複数のミニシアターで同時上映する流れが主流。そのためこうしたこだわりを貫くのがむずかしくなってきた。


 北條支配人は劇場と監督との関係が幸福だった時代を振り返ってくれた。


※以下記事は、2013年~2014年の間、芸術新聞社運営のWEBサイトにて連載されていた記事です。今回、大森さわこ様と株式会社芸術新聞社様の許可をいただき転載させていただいております。


Index


監督やファンを育てる



 渋谷のミニシアター、ユーロスペースの北條誠人支配人と話していて、ある素朴な疑問が頭をよぎった。ミニシアターと呼ばれてきた劇場と他の劇場にどんな違いがあるのだろう? 劇場で映画を上映するという行為は、ミニシアターであれ、シネコンであれ、同じはずだが、そこに違いがあるのだろうか? そのひとつの答えになりそうな言葉が支配人の口から出てきた。


 「僕は映画を上映する人間も表現者だと思うんです」


 その言葉の中にミニシアターを運営する側の覚悟を見た気がした。支配人は劇場を表現の場所ととらえながら、そこでビジネスが成立する方法を考える。


 「劇場のオープン後、一番大事なことは劇場のスケジュールを埋めることです。次に大事なのは劇場を運営するための売り上げをあげること。そして、3番目に劇場の個性について考えることになります」


 「最初の2つをクリアしないと個性は出せません。そこが自主上映のシネクラブとの違いです。あちらは個性を優先する運動体で、こちらはビジネスです。さらに合理化を進めると、シネコンにまでいきつくのでしょうが、ミニシアターはそれとも違い、どの作品を選ぶのかという責任を背負っていると思います」


 「これまでの経験からいうと、上映作品を選ぶ時は、気持ちが幸せでないとだめですね。ダウンしている時に上映作品を焦って決めると、後で作品に対して気持ちが乗らないこともあります。そういうことも含め、上映する側も表現者だと思います」


 この発言を聞いてミニシアターの背負ってきた大事な役割についても考えてみた。80年代以降のミニシアターは〝スターより監督で映画を見る〟という楽しみ方を観客に伝えてきた。そして、支持する監督が新作を撮るたびに自分の劇場で上映し、その監督のホームグラウンドとなってきた。


 たとえば、神保町の岩波ホールはエルマンノ・オルミ(『木靴の樹』〈78〉)、かつての恵比寿ガーデンシネマはウディ・アレン(『ブロードウェイと銃弾』〈94〉)、渋谷のシネマライズはハーモニー・コリン(『ガンモ』〈97〉)といった監督たちの新作を好んでかけてきた。こうした劇場がごひいき監督を大切に育てることで、その監督のファンも日本で育っていった。


 ミニシアターはふだんの商業ベースにのりにくい監督たちの作品を、日本で広めるという大事なミッションを背負っていたのだ。



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