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【ミニシアター再訪】第11回 “渋谷劇場”の幕開け、ミニシアターの開花・・・その6 好奇心をくすぐるユーロスペース 後編

【ミニシアター再訪】第11回 “渋谷劇場”の幕開け、ミニシアターの開花・・・その6 好奇心をくすぐるユーロスペース 後編

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中国映画が空前のヒット



 ユーロのおかげで日本の映画ファンが知ることができた監督たちは他にもいる。ロシアのヴィターリー・カネフスキー(『動くな、死ね、甦れ!』〈89〉)、スペインのペドロ・アルモドヴァル(『神経衰弱ぎりぎりの女たち』〈87〉)、フランスのフランソワ・オゾン(『焼け石に水』〈00〉)などなど。


 そんな中でも、興行的に快挙ともいえる結果を生んだのがチャン・イーモウ監督のデビュー作『紅いコーリャン』(87)だった。89年の1月に封切られ、24週間の興行となり、3万9000人の集客があった。ユーロの歴史の中では『ゆきゆきて、神軍』(87)の次にヒットした作品となっている。 


 当時、中国や台湾から新しい才能が登場し、チェン・カイコー(『黄色い大地』〈84〉)やホウ・シャオシェン(『悲情城市』〈89〉)などの才能も高く評価されていく。『紅いコーリャン』は彼らと並んでその演出力を評価されていたイーモウの、骨太の演出が鮮烈な印象を残す傑作で、88年のベルリン映画祭でグランプリに輝いた。小さな村でコーリャンを使った酒作りに励む夫婦の物語で、セリフに頼らず、風景の中にいる人間たちの営みをどこか神話的な語り口で見せる。 


 「『紅いコーリャン』に関しては問題になった場面(人間の頭皮がはがれる場面)もありましたが、うちの劇場がマイノリティだから上映できた、というのはあると思います」


 「振り返ってみると、その時、一番力を持っているエリアや国などにいい形で入って、力のあった瞬間に立ちあえました。80年代はニューヨーク・インディーズ映画やカラックスなどのヨーロッパ映画、80年代後半以降のアジア映画、90年代の日本映画。こうした癖のある映画はもうからないので、大手の配給会社が買い付けなかったんです」


 「だから、こちらも権利が安いうちに作品を発掘して広めることができました。それがミニシアターの役目だったし、こちらも楽しかった。ミニシアターの観客もおもしろがっていました。ところが、今はこうした作品に大手が手を出すようになってきた。一方、癖のある作品も昔より減ってきました」 


 支配人は作品選びに関して、それを送り出す〝世代〟にもこだわっているようだ。 


 「日本映画でいえば、僕が若かった頃に塩田明彦や青山真冶、中田秀夫などの作品を上映できたのはラッキーだったと思います。同世代からこそ、こうした作品をピックアップできたし、その魅力を観客にも伝えやすかった」


 「でも、50代となった僕が20代、30代の監督たちと一緒にやろうというのは、どこか無理もあるような気がするので、若い映画人とコミュニケーションをとれる人が出てきてほしいです」


 「また、かつては天井知らずで、買い付けにしてもこのままの勢いで続けられるんじゃないか、という幻想がありましたが、今は天井が下がってきたので、大きくやることよりも、持続可能なシステムにしなくてはいけない。細く長く好きなことを続けられる形を作らなくてはいけない時代ですね」 


 今のユーロは3分の1が若い観客で、残りの3分の2は中高年やシニアの客層だという。それを将来は5分と5分にしていくのが北條支配人の夢だ。ちなみに今年の春に上映されたレオス・カラックス監督の新作『ホーリー・モーターズ』は往年のシネフィルではなく、若い観客層がやってきたという。「愛は伝染する」とは、『汚れた血』の初公開時のコピーだったが、ユーロが25年間かけて育てた監督への愛は静かに伝染しつつある……。 



◉かつてユーロのあった渋谷・桜丘町の東武富士ビル(2013年撮影)。 右の階段を上ると2Fにユーロがあった。現在、ユーロスペースは「KINOHAUS」という円山町のシネマコンプレックスビルに所在。ほかにシネマヴェーラ渋谷、オーディトリウム渋谷、映画美学校などが入っている。

  

  

前回:【ミニシアター再訪】第10回 “渋谷劇場”の幕開け、ミニシアターの開花・・・その5 好奇心をくすぐるユーロスペース 中編

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文:大森さわこ

映画ジャーナリスト。著書に「ロスト・シネマ」(河出書房新社)他、訳書にウディ・アレンの評伝本「ウディ」(D・エヴァニアー著、キネマ旬報社)他。雑誌は「ミュージック・マガジン」、「キネマ旬報」等に寄稿。ウエブ連載をもとにした取材本、「ミニシアター再訪」も刊行予定。



※本記事は、2013年~2014年の間、芸術新聞社運営のWEBサイトにて連載されていた記事です。今回、大森さわこ様と株式会社芸術新聞社様の許可をいただき転載させていただいております。なお、「ミニシアター再訪」は大幅加筆し、新取材も加え、21年にアルテス・パブリッシングより単行本化が予定されています。

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