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【ミニシアター再訪】第12回 映画の街・銀座からの巻き返し・・・その1 ある巨匠とフランス映画社 前編

【ミニシアター再訪】第12回 映画の街・銀座からの巻き返し・・・その1 ある巨匠とフランス映画社 前編

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 もともと銀座は映画の街だったが、ミニシアターのスタートに関しては六本木や渋谷より遅れ、87年にシャンテシネなどが登場した。


 そのシャンテに数々の作品を提供したことで知られるのが、銀座にオフィスを構えていた洋画の配給会社、フランス映画社。


 今回は変則的な記事で、このミニシアター界を代表する会社の最後を追ったレポートになっている。


 会社は70年代にスタートし、「BOWシリーズ」というレーベルを作る。BOWとはベスト・オブ・ザ・ワールドの略で、世界で最高のクオリティを誇る数々の作品を輸入していた。


 ゴダール、タルコフスキー、ヴェンダースのようなヨーロッパの巨匠、ジャームッシュのようなアメリカの才人、ホウ・シャオシェンのようなアジアの新鋭まで、映画史に残る才能を次々に日本に紹介。かつて『キネマ旬報』の外国映画ベストテンには、毎年、この会社の作品が何本も入っていた。


 会社を運営する柴田駿社長と川喜多和子副社長は、まさにミニシアター界の伝説の人物だった。


 しかし、川喜多副社長は93年に53歳で他界。その後は柴田社長が運営していたが、やがては輸入作品の本数が減ってしまう……。


 ギリシャのテオ・アンゲロプロス監督は、この会社の看板監督ひとりだったが、遺作『エレニの帰郷』(08)はどういういきさつで、本国より6年遅れで公開されたのか?


 銀座にあったフランス映画社のことを振り返りつつ、巨匠監督とフランス映画社の最後の時を見つめたレポートを2回に分けてお届けしたい(昨年、故人となられた柴田社長のご冥福もお祈りしたい)。


※以下記事は、2013年~2014年の間、芸術新聞社運営のWEBサイトにて連載されていた記事です。今回、大森さわこ様と株式会社芸術新聞社様の許可をいただき転載させていただいております。


Index


アンゲロプロス監督の遺作



 今年(13年)の秋、映画会社から1本の電話がかかってきた。それは銀座に本社がある東映からで、会社名を告げられた時、邦画の新作プロモーションかな、と思った。ところが、話を聞いていると、予期しなかった監督の名前が出てきた。


 「今度、テオ・アンゲロプロスの新作をうちで公開することになりました」


 えー、と思わず声を上げる。


 アンゲロプロスはギリシャ出身の巨匠監督で、80年代・90年代のミニシアターでは芸術志向の観客たちに熱く支持されていた。4時間の超大作『旅芸人の記録』(75)が日本では神保町の岩波ホールで公開されて10万人を動員する大ヒットを記録。それが80年代以降のミニシアター誕生に大きな影響を与えたともいわれている。


 その後、『アレキサンダー大王』(80)、『シテール島への船出』(83)、『霧の中の風景』(88)、『こうのとり、たちずさんで』(91)、『ユリシーズの瞳』(95)、『永遠と一日』(98)といった作品が『旅芸人の記録』と同じフランス映画社によって輸入され、六本木のシネ・ヴィヴァン・六本木や銀座のシャンテシネといったミニシアターで上映されて話題を呼んだ。


 ところが、2004年の『エレニの旅』の後に撮った『エレニの帰郷』(08)は日本公開が実現しないまま、監督は12年1月24日に新作を撮影中に事故死。この悲しいニュースは映画ファンに衝撃を残した。


 この訃報から2年後の14年1月、遺作が遂に日本でも上映されるという。それにしても、なぜ、『仮面ライダー』や「『相棒』シリーズ」といった邦画で知られる東映で? その素朴な疑問に宣伝部の担当者は答えた。


 「実はうちの岡田(裕介)社長がアンゲロプロス映画の大ファンで、ある時は彼の本を作りたいとまで思っていたそうです」


 黒澤明やデイヴィッド・リーンと並んで、アンゲロプロスを20世紀最高の映画監督と考えている社長は、彼の遺作が数年間、オクラであることに心を痛め、今回、採算を度外視して公開を決意したという。その話を聞き、2度驚いた。今もそんな気骨のある挑戦をする人がいたとは……。


 また、今回の上映に関してフランス映画社の柴田駿社長の助力もあったという。その名前を聞いて、アンゲロプロス映画の育ての親ともいうべきフランス映画社の作品群へも思いをはせる。



◉アンゲロプロス監督の遺作となった『エレニの帰郷』(09)のチラシ。フランス映画社が協力という形で東映が権利を買った。



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