大島渚も絶賛
アンゲロプロス監督はこれまで祖国ギリシャの歴史的な背景を盛り込みながら、圧倒的な映像美で人生の旅人たちの姿を見せてきた。黒澤明や大島渚といった日本の巨匠たちもその演出力を高く評価し、個人的に交流もあったという。『シテール島への船出』が86年にシネ・ヴィヴァン・六本木で公開された時、大島渚はこんな文章を新聞に寄せている。
「やはりもう一度と思って、シネ・ヴィヴァンへ足をはこんだ。『シテール島への船出』を見るためである。平日の第一回目だというのに客席は満席に近かった。パリのサンタンドレ・デザールで見た時は半分も埋まっていなかった。テオ・アンゲロプロスへの信頼は日本で定着したらしい」(『毎日新聞』86年3月4日夕刊)
日本ではアート系映画ファンの間で圧倒的な支持を受け、公開される新作のほとんどが映画雑誌のベストテンに入っていた。作家の池澤夏樹が字幕を担当し、パンフレットや雑誌にニュー・アカデミズム系の蓮實重彦が文章を書き、教養人好みの難解な監督というイメージが確立されていった。
ちなみに紀伊國屋書店によってリリースされたブルーレイには作品ごとに小冊子がつけられ、詩人の白石かずこ、作家の辻邦夫、評論家の加藤周一などが公開時の新聞やパンフレットに寄稿した文章が転載されている。
私自身はケレンやいかがわしさも入っている作品の方が好きなので、これまでアンゲロプロス映画に個人的な思い入れはなかった(その昔、『アレキサンダー大王』を見た時は身の置き所がなかった……)。
◉『エレニの帰郷』の上映にあわせて、シネコンでアンゲロプロスの回顧上映も行われた。