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【ミニシアター再訪】第12回 映画の街・銀座からの巻き返し・・・その1 ある巨匠とフランス映画社 前編

【ミニシアター再訪】第12回 映画の街・銀座からの巻き返し・・・その1 ある巨匠とフランス映画社 前編

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ミニシアター時代の俳優たち



 この映画の後半で、ヒロインと2人の男、ヤコブとスピロスが老いた姿を見せながら、3人で船に乗り込む場面がある。思えば3人を演じる俳優たちは80年代・90年代にミニシアターの数々の人気作品で主役を演じていた。


 ブルーノ・ガンツは今年73歳、ミシェル・ピッコリは今年89歳、イレーヌ・ジャコブだけは今年48歳とまだ若く、あえて老け演技を見せているが、かつての初々しかった面影は消えている。彼らの姿に時間の経過がはっきり刻まれ、そこに思わずミニシアター文化の変化も重ねてしまった。 


 監督自身もすでにこの世を去ってしまったわけだが、新作(「トリロジア」の最終章)を撮影中に亡くなったことが、妙に感慨深いと思う。生前、旅をテーマに映画を作り続けた彼はこんな言葉を残しているからだ。 


 「映画作りも(私には)旅といえます。ロケ地を転々としているからではありません。撮影中に起きることこそが旅だからです。そのような旅が自分自身と対峙していることを忘れてはいけません。どんなことをしていても、旅は最終的に自らの内面へと向かう旅になるからです。生身の肉体ではなく、自らの内なる存在が旅をするという意味です。そう考えることで旅はより豊かになります」(『エレニの旅』ブルーレイ特典映像のインタビューより) 


 監督は撮影中に遂に生身の肉体を捨て、魂だけが存在する世界に旅立ったのかもしれない。 


 試写から数日後、アンゲロプロス映画の普及に力を尽くしてきたフランス映画社が経済的な苦境に立ち、数々のフィルムが裁判所に差し押さえられたというニュースが伝わってきた。それを聞いて、なんとも悲しい気持ちになった。そんな状況の中で遺作の公開が決まっていたのは幸運だったと思う。 


 監督の生前の置き手紙ともいえる『エレニの帰郷』。日本の観客たちは巨匠の最後の旅をどんな気持ちで受け止めながら劇場を後にするのだろう……。 私は初日の劇場を訪ねたいと思った。


(後編では『エレニの帰郷』の熱気をはらんだ公開初日の様子をレポート)




◉東映は古くから銀座3丁目にオフィスを構え、『エレニの帰郷』の試写会はこのビルでも行われていた。同じビルには、2スクリーンを持つ映画館・丸の内TOEIが入る。




前回:【ミニシアター再訪】【ミニシアター再訪】第11回 “渋谷劇場”の幕開け、ミニシアターの開花・・・その6 好奇心をくすぐるユーロスペース 後編

次回:【ミニシアター再訪】第13回 映画の街・銀座からの巻き返し・・・その2 ある巨匠とフランス映画社 後編 

 


文:大森さわこ

映画ジャーナリスト。著書に「ロスト・シネマ」(河出書房新社)他、訳書にウディ・アレンの評伝本「ウディ」(D・エヴァニアー著、キネマ旬報社)他。雑誌は「ミュージック・マガジン」、「キネマ旬報」等に寄稿。ウエブ連載をもとにした取材本、「ミニシアター再訪」も刊行予定。



※本記事は、2013年~2014年の間、芸術新聞社運営のWEBサイトにて連載されていた記事です。今回、大森さわこ様と株式会社芸術新聞社様の許可をいただき転載させていただいております。なお、「ミニシアター再訪」は大幅加筆し、新取材も加え、21年にアルテス・パブリッシングより単行本化が予定されています。

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