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【ミニシアター再訪】第13回 映画の街・銀座からの巻き返し・・・その2 ある巨匠とフランス映画社 後編

【ミニシアター再訪】第13回 映画の街・銀座からの巻き返し・・・その2 ある巨匠とフランス映画社 後編

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 銀座にオフィスがあったフランス映画社は80年代から90年代までミニシアター界をひっぱってきた伝説の配給会社だ。


 2014年1月、この会社の看板監督、テオ・アンゲロプロスの遺作『エレニの帰郷』(08)が上映された。輸入したのは東映だったが、フランス映画社は配給協力としてクレジットされた。


 『エレニの帰郷』の初日、劇場取材にいくと、そこには監督の熱心な信者が集まり、2012年に不慮の事故で突然他界した監督のために献花台も作られていた。


 そして、劇場にはフランス映画社の柴田社長(2019年他界)の姿もあった。


 この封切りから10か月後。フランス映画社は破産申告を申請。いま、思い返せば、あの日は映画界に多大なる貢献をしてきたフランス映画社が迎えた最後の“初日”だった……。


※以下記事は、2013年~2014年の間、芸術新聞社運営のWEBサイトにて連載されていた記事です。今回、大森さわこ様と株式会社芸術新聞社様の許可をいただき転載させていただいております。


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シネコンでの初日



 テオ・アンゲロプロス監督の映画が新宿の劇場で上映されることになった。 近年までは銀座のシャンテシネ(現TOHOシネマズシャンテ)で上映されることが多かったが、新作にして遺作の『エレニの帰郷』(08)は新宿三丁目にある東映系のシネマ・コンプレックス、新宿バルト9で上映される。 


 初日にどんな観客が来るのか、とても興味があった。近年はそうしたアート系映画の熱が日本の洋画界から消えつつあったからだ。一体、どんな観客がやってくるのだろう。


 初日の様子を見るため、封切日の14年1月25日の朝、バルト9に向かう。近年、新宿には新しいシネコンが増え、東京で最も集客率の高い映画の街になりつつある。バルト9は大衆的な新宿東映の跡地に立っている。今ではファッション・ビルと映画館とが一体化したおしゃれなビルに生まれ変わった。白を基調としたすっきりしたデザインで、古ぼけた映画館の面影などみじんもない。 


 伊勢丹の近くにある松竹系の映画館、新宿ピカデリーも数年前に21世紀の建物として生まれ変わり、バルト9同様、さまざまなプログラムを上映するシネコンとして人気を集める。新しいビル(白っぽいビルが多い)が増えたせいか、新宿三丁目周辺のイメージが昔よりクリーンになった。いかがわしい歓楽街の猥雑さが消え、空気が浄化されているような印象さえある。 


 街の変化を体で受け止めながら、バルト9の入口に入ると映画の発券機があり、エレベーターへと昇る人々の列ができている。映画館の入口は9階。ドアがあくと、広いロビーにチケット売り場があり、さまざまなポスターが貼られている。


 サンドラ・ブロック主演のハリウッド大作『ゼロ・グラビティ』(13)や邦画の『永遠の0』(13)、さらに『仮面ライダー×仮面ライダー 凱武&ウィザード天下分け目の戦国MOVIE大合戦』(13)も上映中。長い列ができていたのはアニメファンに人気の『劇場版THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!』(13)。渋谷のミニシアターで公開中のアメリカのインディペンデント系作品、『ビフォア・ミッドナイト』(13、リチャード・リンクレイター監督)も上映されている。 


 作品に劇場固有の特色があるわけではなく、大作から小品まで何でもあり。そこがかつてアンゲロプロス映画を上映していたアート系のミニシアター、シャンテシネとの大きな違いだ。そのフロアの壁を見ても、シネコンの上映作品の幅の広さがうかがえる。 


 ロビーの壁にはすでに上映中の「アンゲロプロス」レトロスぺクティブの作品群が紹介されていて、代表作10本の場面写真がある。テレビ画面では『エレニの帰郷』の予告編も流れている。そのそばを見ると、ピンクのふわふわの着ぐるみを身にまとった日本のアイドル系タレントの主演作の大きな広告がある。 


 個性よりごった煮。それがシネコンのあり方だ。そして、興行成績が悪いものは容赦なく小さな部屋へと移され、1日の上映回数も減っていく(入りがひどいと、上映も終了)。 


 ミニシアターでも、ヒットしない映画は長くは上映されないが、これほど徹底した効率主義ではない。80年代にミニシアターがスタートした頃、どんなにヒットしなくても4週間は上映を続けるという映画館が多かった。シネコンの場合、どうしても大型予算を投じた大作や話題作が生き残りやすく、大衆性のないアート系映画は数字的に不利だ。




◉再開発が進む新宿はかつての猥雑さが薄れ、ファッション・ビルが目立つようになった(2014年撮影)



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