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【ミニシアター再訪】第16回 映画の街・銀座からの巻き返し・・・その5 シャンテで大ヒット『ベルリン・天使の詩』

【ミニシアター再訪】第16回 映画の街・銀座からの巻き返し・・・その5 シャンテで大ヒット『ベルリン・天使の詩』

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新聞広告をたどる



 この作品の初日は4月23日。そこで当時の新聞広告(『朝日新聞』)をたどり直してみた。4月1日には「シネ1」で9日に封切られる愛すべき人間ドラマ、『スイート・スイート・ビレッジ』(85、こちらもフランス映画社配給)の広告の中に小さな黒枠がもうけられ、こんなコピーがある――「公開迫る! 全世界絶賛のヴェンダースの新しい傑作」 


 4月8日にはやっと本格的な広告が出ているが、枠はけっして大きくはなく、狭いスペースの中にマスコミのコメントが掲載されている。 


 「愛の賛歌、いとおしいまでの人間賛歌を天使がうたう」(淀川長治氏)


 「はかり知れないやさしさの感動」(仏リベラシオン紙)


 「最高に美しいラブ・ストーリー」(仏プルミエール紙)


 「心に沁みいる映像メルヘン」(漫画アクション)


 「崇高なまでに美しく、深くロマンチック」(米ヴァラエティ紙)


 「洗練のきわみの、心のこもった傑作」(独ディー・ヴェルト紙)


 「奇跡の映画」(浅田彰氏)


 フランス、ドイツ、アメリカとコメントの国籍の幅を広げることで、全世界で絶賛された作品というイメージを印象づける。また、国民的な映画評論家の淀川長治からニュー・アカデミズムの学者、浅田彰まで著名人のコメントも幅広い人選になっている。4月15日にはさらに別のコメントも追加されている。 


 「絶妙の美しさ…音楽効果も抜群」(ちわきまゆみさん――ロックシンガー) 


 ヴェンダースはロック好きで知られ、劇中にはオーストラリア出身のマニア好みのロッカー、ニック・ケイヴがパワフルな演奏を見せる場面もあるので、あえてこういう人選にしたのだろう。 


 初日直前の4月22日には「本年度ベストワンの熱い反響の中で公開」と映画の質の高さを印象づけるコピーが登場。遂に当日となる23日を迎える。 


 そして、公開の一週間後、30日には「大ヒット満員御礼、ロングラン決定! 現代ベルリンの愛と抒情の映像詩の傑作」とのコピーが打たれ、「都内独占ロードショー」の文字も目をひく。ハリウッド大作に比べると、ささやかな規模の広告ばかりだが、小さいながらも封切られた時の勢いは伝わる。 


 封切後のことを高橋専務はこう語る。 「なぜ、この映画が当たったのか今でも理由が分からないですね。『グッドモーニング・バビロン!』(87)『非情城市』(89)『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』(85)といった他のフランス映画社作品はなぜヒットしたのは分かる気がしますが、この作品に関しては、なぜこれだけ入ったのか理解できないです」 


 ただ、当時のマスコミでの盛り上がりが成功の要因のひとつだったと高橋専務は考えているようだ。 


 「多くの媒体が好意的な記事を書いてくれたことがヒットした理由のひとつにあると思います。新聞では映画欄や文化欄だけでなく『天声人語』にもこの映画のことが書かれたんです。そうすると、見て分からなくても、分からないとは言えない。そんな雰囲気があったかもしれない。よく分からないけど、なんか、すごい映画なんじゃないか、という感覚もあったんでしょう」 


 『朝日新聞』の「天声人声」にこの作品が登場したのは封切りから約2カ月後の6月20日のこと。一部を引用すると――。 


 「(主人公のダミエルが恋をして天使をやめると)それまで天使の目を通じて淡々と描かれてきた黒白の画面が、突然、カラーに変わる。観客はそのとき、物には色やにおいや味があるという、単純な事実の素晴らしさに気づかされることになる。(中略)あわただしい都会生活のなかでわたしたちが意識することを忘れてしまったもの、この地上に生きて暮らしていることのかけがえなさ、といったものが伝わってくる。(中略)東京・有楽町のシャンテシネ2にかかって2カ月近くになるが、観客は若者から年配へと静かな広がりをみせているという」 


 80年代は大手新聞に記事が出ると、劇場動員に大きな変化が出ると言われていた。特に200席くらいのミニシアターの場合、こうした記事はかなり影響力を持っていたようだ。 



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