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【ミニシアター再訪】第17回 映画の街・銀座からの巻き返し・・・その6 シャンテ傑作選1 フランス映画社作品

【ミニシアター再訪】第17回 映画の街・銀座からの巻き返し・・・その6 シャンテ傑作選1 フランス映画社作品

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女性監督の新しい流れ



 フランス映画社は才気ある女性監督の作品も積極的に配給してきた。ニュージーランド出身のジェーン・カンピオンの場合、『エンジェル・アット・マイ・テーブル』(90)が日本での彼女の出世作となった。世間とうまく折り合えず、精神障害で入院生活を送ったこともある実在の女流作家(ジャネット・フレイム)の魂の変遷を風変わりな映像で見せる。ヒロイン役を演じた新人女優のケリー・フォックスに、当時、取材する機会があったが、とても頭のいい女優で、きびきびした受け答えが印象に残った(その後はダニー・ボイル監督のデビュー作『シャロウグレイブ』(94)でも好演を見せている)。 


 「『エンジェル・アト・マイ・テーブル』は渋い映画ですが、興行はよかったです。そこでカンピオンの次の監督作『ピアノ・レッスン』(93)をみゆき座で上映するはずでした。ヴェンダース監督の『パリ、テキサス』(84、フランス映画社配給)がみゆき座で成功したので、それと同じやり方です。ところが、日劇プラザの番組に穴があいたので、急きょ、この作品を入れたらまずまずの結果が出ました」 


 93年のカンヌ映画祭パルムドールに輝き、翌年のアカデミー主演女優賞(ホリー・ハンター)や脚本賞等を受賞した『ピアノ・レッスン』はこうして有楽町の拡大公開系の劇場、日劇プラザにかけられ、特に女性層から熱い支持を得た。ピアノをめぐる官能的なラブストーリーで、ニュージーランドの原始的な風景とマイケル・ナイマン作曲の美しいピアノ曲が完璧なる融合を見せる。 


 シャンテの約2倍の客席(554席)を持つ東京の中心的な劇場のひとつ、日劇プラザでの上映はフランス映画社にとって大きなチャレンジとなった(残念なことに同社の副社長、川喜多和子さんはこの作品を見た93年カンヌ映画祭の直後、6月に53歳で他界。映画はその8カ月後の2月に日本公開となった)。 


 フランス映画社が日本の土を踏むチャンスを与えた女性監督には英国のサリー・ポッターもいて、ヴァージニア・ウルフ原作の『オルランド』(92)はシャンテの歴代16位となる。93年9月から14週の興行で、興収は8300万円となっている。主演は英国人のティルダ・スウィントン。当時は知る人ぞ知る的な存在ながら、今ではオスカー女優となり、『ベンジャミン・バトン 数奇な運命』(08)などハリウッド大作でも活躍中だ。『オルランド』では男と女のふたつの性を持ち、時空を超えて生きる主人公を好演していた。 


 英国つながりでいうと、90年代にフランス映画社配給で話題を呼んだ英国映画にはマイク・リー監督のカンヌ映画祭パルムドール受賞作『秘密と嘘』(96)もあった。奔放な青春時代を送ったヒロインが、かつて自分が生んだ娘と再会する物語で、ホロ苦い人生の果てにある希望が胸に迫る作品。来日会見の時、監督はいかにも英国風の辛辣な発言を飛ばしていて、その“こってり味”のユーモアが生きた代表作となる。こちらはシャンテの興行歴代7位の作品で、96年12月から18週上映された(興収1億840万円)。 


 また、ベルギー出身のジャコ・ヴァン・ドルマルもフランス映画社が発見した監督のひとりで、ミシェル・ブーケ主演の『トト・ザ・ヒーロー』(91)はシャンテの歴代12位で、91年12月から14週上映(興収8600万円)。孤独な老人、トマの過去の思い出と願望まじりの妄想が不思議なテイストで映像化される。ドルマル監督は2作目の人間ドラマ『八日目』(96、ダニエル・オートゥイユ主演)も話題を呼んだ。 


 アメリカのインディペンデント系監督ではハル・ハートリーの『シンプルメン』(92)、『愛・アマチュア』(94)などもフランス映画社が配給してシャンテにかけた。この監督、線の細さは気になったが、知的な才気はあった。 


 個人的に忘れがたいのはアキ・カウリスマキ監督が英国で撮った佳作『コントラクト・キラー』(90)。人生に絶望していた中年男(ジャン=ピエール・レオ)の再生がカウリスマキお得意のとぼけたユーモアとブルース音楽をまぶして描写され、人生の味わいがあった。 


 フランス映画社作品はそのレーベル、BOW(ベスト・オブ・ザ・ワールド)シリーズの名前に偽りなしの多彩な作品群をシャンテシネで展開してきた(シャンテ誕生前は、シネ・ヴィヴァン・六本木でジャン=リュック・ゴダール、アンドレイ・タルコフスキー、ビクトル・エリセ等の話題作を上映していた)。 


 高橋専務が語るところによれば、フランス映画社の宣伝会議も本当に熱のこもったものだったという。 


 「社長の柴田さんのディスカッションは、本当にすごかったです。デザイナーの小笠原正勝さんがポスターを作って持っていくわけですよ。それを見て、僕なんか、いいんじゃないと思うんですが、柴田さんは首を縦にふらない。ときどき、ぶつぶつと言うだけで、半日にらめっこです。ふたりのいるところに川喜多和子さんが入ってきたら、また、大変で……。こちらがいたたまれないくらいすごい口論もありました。でも、結果的にはみなさん、本当に立派な仕事をされていたと思います」 


 シャンテシネはフランス映画社が才能を見出した新しい作家たちの新作だけではなく、オープニング作品の『紳士協定』(47、東宝東和配給)のように旧作の名作発掘の路線も考えていた。 


 「上映する作品は古典的なものもやっていこうという姿勢があったのですが、どこから手をつけたらいいのか、わかりにくいわけです。そこで東宝東和に写真(=作品)を探してもらうという流れもありました。マルセル・カルネ監督の『天井桟敷の人々』(45)などは柴田さんの会社でリバイバル上映していただけました。ただ、D・W・グリフィス監督の『國民の創生』(1915)などの公開はあまりうまくいきませんでした。東宝東和にお願いして権利をクリアして上映したんですが……」 


 やがて、シャンテシネはフランス映画社の新作や映画史上の名作の上映に加え、大手の洋画会社がかかえる個性的な作品も上映するようになり、さらなるヒット作を生み出していく。


(次回はグレイテスト・ヒッツ第2弾。『セックスと嘘とビデオテープ』、『ドゥ・ザ・ライト・シング」が登場)




◉現在は3つのスクリーンで「TOHOシネマズシャンテ」として営業している 。(2014年撮影)



前回:【ミニシアター再訪】第16回 映画の街・銀座からの巻き返し・・・その5 シャンテで大ヒット『ベルリン・天使の詩』

次回:【ミニシアター再訪】第18回 映画の街・銀座からの巻き返し・・・その7 シャンテ・グレイテスト・ヒッツ・2



文:大森さわこ

映画ジャーナリスト。著書に「ロスト・シネマ」(河出書房新社)他、訳書にウディ・アレンの評伝本「ウディ」(D・エヴァニアー著、キネマ旬報社)他。雑誌は「ミュージック・マガジン」、「キネマ旬報」等に寄稿。ウエブ連載をもとにした取材本、「ミニシアター再訪」も刊行予定。



※本記事は、2013年~2014年の間、芸術新聞社運営のWEBサイトにて連載されていた記事です。今回、大森さわこ様と株式会社芸術新聞社様の許可をいただき転載させていただいております。なお、「ミニシアター再訪」は大幅加筆し、新取材も加え、21年にアルテス・パブリッシングより単行本化が予定されています。

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