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【ミニシアター再訪】第19回 映画の街・銀座からの巻き返し・・・その8 シャンテ傑作選3 英国の新しい魅力

【ミニシアター再訪】第19回 映画の街・銀座からの巻き返し・・・その8 シャンテ傑作選3 英国の新しい魅力

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英国人がみつめたイタリアの風景



 ふだんはディズニーのアニメや大作エンタテインメントを配給しているブエナ・ビスタ・ジャパン(現・ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン)がシャンテにかけて大ヒットとなったのがイタリア映画『イル・ポスティーノ』(94)で、96年5月18日より19週間の上映。シャンテの歴代3位の興行成績(1億4800万円)となった。 


 この作品に関しては高橋専務の取材に同席していた東宝総務部の松本章也室長(当時。元スカラ座・旧みゆき座勤務)がこんなエピソードを披露した。 


 「この映画はシャンテのキャパシティではお客様が入りきれず、しばらく近くの〔旧〕みゆき座で上映したことがありました。シャンテは220席ちょっとですが、みゆき座は750席以上ありました。前日までシャンテで上映した後、みゆき座まで上映用のフィルムを運んだのですが、シャンテから近かったので、こんなことができたと思います」 


 通常、1本の映画は6か、7巻の長いフィルムに収められている。その重さは相当なもので輸送が楽ではなかったが、みゆき座はシャンテの至近距離だったので、夜の上映後、翌朝までにフィルムの束を届けることができたという。 


 『イル・ポスティーノ』の舞台はナポリの小さな島で、郵便配達人(イル・ポスティーノ)と実在のチリの詩人パブロ・ネルーダとの温かい関係が描かれる。怠惰な日々を送っていた主人公は、共産思想のため母国を追われた詩人との出会いを通じて詩の魅力にめざめ、村一番の美女に思いを告げようとする。 


 澄んだ空と青い海に囲まれ、水道さえもひかれていない自然のままの島。その風景を見ていると、自分もその島の住人になったようで、ほっこり気分に浸れる。 


 ルイス・バカロフの牧歌的なテーマ曲も耳に残るが、海外で発売されたサントラ盤にはジュリア・ロバーツ、イーサン・ホーク、ウィレム・デフォー、マドンナ、スティングといった人気スターによるネルーダの詩の朗読も収録され、詩の喚起力も伝わる。 


 監督のマイケル・ラドフォードは英国の監督で、ジョージ・オーウェル原作、ジョン・ハート主演の『1984』(84)等も手がけている。彼はもともと郵便配達人役のイタリアのコメディアン兼俳優マッシモ・トロイージと交流があったようだ。41歳のトロイージは撮影前から心臓病をかかえていて、なんと撮影終了の12時間後に他界した。 


 最後の生の輝きをスクリーンに残したトロイージは、その年のアカデミー賞では主演男優賞候補となり、他にも作品賞、監督賞など5部門でノミネートを受けた(結果はバカロフがオリジナル作曲賞を受賞)。 


 ロケ地の美しさ、40代で急逝した主演男優、ネルーダの詩。いくつかの話題が重なることで、世界的な大ヒット作となり、シャンテでの興行も大成功を収めたのだろう。 




◉『イル・ポスティーノ』(上)と『フル・モンティ』(下)のサントラ盤。どちらも話題を呼んだ。




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