1. CINEMORE(シネモア)
  2. NEWS/特集
  3. 【ミニシアター再訪】第21回 映画の街・銀座からの巻き返し・・・その10 愛されるシネスイッチ銀座
【ミニシアター再訪】第21回 映画の街・銀座からの巻き返し・・・その10 愛されるシネスイッチ銀座

【ミニシアター再訪】第21回 映画の街・銀座からの巻き返し・・・その10 愛されるシネスイッチ銀座

PAGES


空前の英国美青年ブーム



 この劇場での2本目の上映作品は『モーリス』(87、ヘラルド・エース配給)。日本では美少年好きの少女漫画のファンなども巻き込み、英国の美形スター・ブームを巻き起こして大ヒットを記録した。監督は『眺めのいい部屋』(86)『日の名残り』(93)のジェームズ・アイヴォリーで、優雅なコスチューム姿の男優たちを美しく撮ることで定評があった。


 主演は後に『フォー・ウェディング』(94)『ノッティングヒルの恋人』(99)といったコメディで世界的な人気スターとなるヒュー・グラント。当時の彼は“ヒュー様”と呼ばれ、世界に先駆け(?)日本では美形スターとして人気を得ていた(当時、モーリス研究会なるものまで誕生していた)。


 当時、私はこの映画を最終日にシネスイッチに見に行ったが、場内は若い女性客があふれかえっていた。そして、ロビーで次の回を待っていたら、「救急車を呼べ!」という声が聞こえる。美青年のあまりの美しさに失神……? いや、そうではなく、すごい人ごみのため場内が酸欠状態となり、倒れた人がいたようだ。吉村支配人は言う。


 「とにかく、女性のお客様の熱気がすごかったです。最終日はあまりにも混んで入れない方もいらっしゃいましたが、中には5000円出すから、場内に入れてほしいとおっしゃったお客様もいらしたほどです」


 『モーリス』は4カ月半(88年1月29日~5月12日上映)のロングランとなり、9万4000人を動員。この劇場の歴代興行記録の6位につけている。


 『モーリス』が公開された88年はミニシアターが大きな盛り上がりを見せていた時代で、近所のシャンテシネでは『ベルリン・天使の詩』が30週上映で16万6000人、新宿のシネマスクエアとうきゅうでは87年12月封切りのウンベルト・エーコ原作、ショーン・コネリー主演の『薔薇の名前』(86、ヘラルド・エース配給)が16週の興行となって8万3000人を動員した。それぞれの作品の力もあるが、それだけではなく、ミニシアターという旬の劇場スタイルへの注目もヒットの追い風になったのだろう。



◉爆発的なヒットとなった『モーリス』(右・中央)。ヒュー・グラントの出世作となった。同じく英国美形スターのジュード・ロウの若き日の出演作『オスカー・ワイルド』(右)。


 そんなミニシアター・ブームのひとつの興行的な頂点となるのが89年12月15日に封切られたシネスイッチ作品、『ニュー・シネマ・パラダイス』。40週上映、26万2000人動員というミニシアター興行ナンバーワンの記録を残し、今でもそれは破られていない(この作品については次回、詳しい記事を載せたい)。


 『モーリス』、『ニュー・シネマ・パラダイス』の大ヒットで軌道に乗ったシネスイッチ銀座であるが、こうした80年代の代表作2本を通じてこの劇場の特徴を読み取ることができる。


 この劇場の上映リストを見ていてうかんできたのが“女性”と“ファミリー”というキーワードだったからだ。


 シネスイッチは“女性”を意識した劇場として今では定着していて、他の劇場に先駆けレディース・デーを毎週金曜日に実施している。


 「80年代に週休二日制が導入されたあたりからレディース・デーが始まりました。前身の銀座文化の時代からすでに導入されていて、以前の支配人に聞いた話によれば、金曜日は興行が良くなかったので始めたそうです。男性はひとりで来る方が多いのですが、女性の方は連れだって見えるから、という理由で始めたそうです。今も金曜日は女性客でいっぱいで、いつもの2倍近い動員となります」


 吉村支配人はシネスイッチ名物のレディース・デーについてそう語る。始めた頃の入場料金は900円で、長年、その価格を維持してきたが、2014年の8%の消費税導入で950円になった。今の多くのシネコンでは水曜日にレディース・デーが実施されているが、8%消費税と共に1000円から1100円にアップ。そう考えると今も1000円札でおつりがくるのは女性にとってはありがたいシステムだ。


 また、場内での飲食を禁じているミニシアターも多いが、シネスイッチは飲食自由。丸の内のOL客も来ているようだが、今の若い女性客について吉澤次長は語る。


 「今の女性のお客様は本当にお金に対してシビアです。飲食自由なので、食べ物を持って見える方もいらっしゃいます。とにかく、金曜日はふだんの半分の金額で見られます。これを利用して1回分の料金で2回劇場に来ていただければそれもいいと思います」


 レディース・デーはまるで女子高のようなノリで、男性客には少々近寄りがたい雰囲気があるという。夜の回は銀座・丸の内周辺で働く女性客が中心だが、昼の回は銀座に買い物に来た熟年の女性客が増える。


 「早い回は銀座という場所に自身の楽しみを持っていらっしゃる方が多く、買い物や食事など、映画以外にも楽しみを求め、いわゆる“ハレ”の日として楽しまれているようです」


 銀座四丁目周辺には三越や松屋といった有名デパートや海外のブランドショップが多い。その近くに劇場があることが動員に結びついている。


 「私自身は若い頃、銀座に来ても映画を見る以外は目的がありませんでしたが、シネスイッチのお客様の場合、電話で上映時間のご案内をしていると、“夕方の回はいいの”とおっしゃる方もいらっしゃいます」


 お昼や早めの午後の回を見て食事やショッピングというコースをたどるのだろう。



PAGES

この記事をシェア

メールマガジン登録
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. NEWS/特集
  3. 【ミニシアター再訪】第21回 映画の街・銀座からの巻き返し・・・その10 愛されるシネスイッチ銀座