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【ミニシアター再訪】第21回 映画の街・銀座からの巻き返し・・・その10 愛されるシネスイッチ銀座

【ミニシアター再訪】第21回 映画の街・銀座からの巻き返し・・・その10 愛されるシネスイッチ銀座

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家族をテーマにした作品



 女性の心をとらえる映画館作りが実践されてきたが、同時に気どらない親しみやすさもあり、家族をテーマにした作品に強いところもこの劇場の特徴だ。



◉ 『クライング・ゲーム』のプレス向けリリース(右)。今で言う「ネタバレ」にならないようメディアに要請する監督からのメッセージが掲載されている。『チョコレートドーナツ』(左)は、14年のスマッシュ・ヒットとなった。


 歴代のヒット作の2位であるロベルト・ベニーニ主演・監督のイタリア映画『ライフ・イズ・ビューティフル』(99年4月17日~10月29日上映)はナチの強制収容所送りになる一家の悲劇をコメディアンのベニーニらしいベタな笑いを入れながら描いた作品。強制収容所での出来事はすべてゲームであるかのようにふるまうことで、幼い息子を励まそうとする父親像が印象的だ。


 また、3位のスティーヴン・ダルドリー監督のイギリス映画『リトル・ダンサー』(01年1月27日~6月29日上映)は80年代の小さな炭鉱町でバレエの道を志す少年の物語。男のスポーツはサッカーやボクシングと考えられる時代に家族に内緒でバレエを習い、やがてはがんこな父親の許しを得て、名門のバレエ学校の門をたたく。主演のジェイミー・ベルのパンク精神あふれる小さなダンサーぶりが本当に魅力的で、T・レックスやクラッシュの音楽も耳に残る。こちらも父と子の絆が感動的に描かれる。


 1位の『ニュー・シネマ・パラダイス』、2位の『ライフ・イズ・ビューティフル』、3位の『リトル・ダンサー』とこの劇場の歴代興行のベスト3作品は子役がかわいくて、家族的な温かさが感じられる作品ばかりだ。


 また、14年にスマッシュ・ヒットとなった『チョコレートドーナツ』(12、14年4月19~6月27日上映)は疑似家族の物語で、ゲイのカップルとダウン症の少年の絆を見つめる。こちらは若い層にアピールして好調な興行となった。


 『チョコレートドーナツ』はアラン・カミング演じるゲイのシンガーが主人公だが、ゲイ物もこの劇場の隠れた定番レパートリーで、前述の『モーリス』やニール・ジョーダン監督の傑作『クライング・ゲーム』(92、93年6月18~12月6日上映)、ドラッグ・クイーンたちの旅をミュージカル風に見せる『プリシラ』(94、95年8月18日~11月16日上映)等が話題を呼んだ。


 切ないラブストーリーを官能的な映像と音楽で見せるニール・ジョーダンはシネスイッチに縁の深い監督のひとりでもあり、他に『ことの終わり』(99)『プルートで朝食を』も上映。このうちグレアム・グリーン原作、レイフ・ファインズ主演の『ことの終わり』は4カ月弱のロングラン上映となっている(00年10月14日~01年2月9日上映)。


 彼の代表作『クライング・ゲーム』(アカデミー脚本賞受賞)は半年近く上映された大ヒット作で、10万人を動員してスイッチの歴代興行の6位につけているが、吉澤次長によれば「いまはこういう映画の上映が一番むずかしいです」。


 アイルランドのIRAの兵士を主人公にしたラブストーリーで、主人公はロンドンで謎めいた女性と出会って恋に落ちる。途中で彼女のあっと驚く秘密が暴かれるが、次長によれば、ネット時代の今だとツイッターなどで謎が明かされ、秘密を守り通すのがむずかしいのだという。


 こういう作品が当たった時代は幸せだったのか? それとも、クリックひとつで、ヒット作のネタもすぐに分かる今の方が幸せなのか?


 27周年を迎えたシネスイッチ銀座の上映作品の話を聞きながら、時代の変化について考えさせられた。



◉銀座の中心にあるとはいえ、目抜き通りから一本入るため、喧噪から逃れた落ちついた場所で観客を迎える。 



前回:【ミニシアター再訪】第20回 映画の街・銀座からの巻き返し・・・その9 シネスイッチ銀座が生まれた

次回:【ミニシアター再訪】第22回 映画の街・銀座からの巻き返し・・・その11

 

 

文:大森さわこ

映画ジャーナリスト。著書に「ロスト・シネマ」(河出書房新社)他、訳書にウディ・アレンの評伝本「ウディ」(D・エヴァニアー著、キネマ旬報社)他。雑誌は「ミュージック・マガジン」、「キネマ旬報」等に寄稿。ウエブ連載をもとにした取材本、「ミニシアター再訪」も刊行予定。



※本記事は、2013年~2014年の間、芸術新聞社運営のWEBサイトにて連載されていた記事です。今回、大森さわこ様と株式会社芸術新聞社様の許可をいただき転載させていただいております。なお、「ミニシアター再訪」は大幅加筆し、新取材も加え、21年にアルテス・パブリッシングより単行本化が予定されています。

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