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【ミニシアター再訪】第25回 渋谷系の流行、ミニシアターの熱い夏・・・その2 『トレインスポッティング』とシネマライズの季節

【ミニシアター再訪】第25回 渋谷系の流行、ミニシアターの熱い夏・・・その2 『トレインスポッティング』とシネマライズの季節

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美術から音楽志向へ



 もし、この映画が銀座のように大人の街で上映されていたら、これほどの大ロングランにはならなかっただろう。 


 映画が大ヒット後の99年に刊行された『ミニシアター・ガイド』(エスクァィア マガジン ジャパン)でシネマライズの賴光裕社長はこんな発言を残している。 


 「96年にシネマライズは2スクリーンになったのですが、その頃からお客様が美術志向から音楽志向に変わってきたなという感じがありました。(90年に『コックと泥棒、その妻と愛人』を公開した)ピーター・グリーナウェイ監督の作品を映像派とするなら、音楽派の代表は『トレインスポッティング』と言えるのではないでしょうか。タワーレコード、HMV、またインディーズ系レコードショップも数多くある渋谷という立地のせいかもしれません。アート系作品のコアなファンは(オープンの頃から)増えてはいないと思いますが、話題になったときの広がり方は以前とは比較にならないと思います」 


 音楽派の映画としては『トレインスポッティング』と同じユアン・マクレガー主演、トッド・ヘインズ監督がグラムロックの栄光と挫折を華麗な映像とファッションで描いた『ベルベット・ゴールドマイン』(98、ヘラルド映画配給)も98年に同劇場で上映され20週のロングランとなる(世界中で日本が1番当たったそうだ)。音楽やファッションの流行に敏感な若者の街、渋谷の個性に合う作品を上映することでシネマライズは波に乗っていた(90年代にこの街からは“渋谷系”なる音楽も誕生して注目された)。 



◉「音楽」はシネマライズの重要な要素のひとつ。グラムロックを描いたトッド・ヘインズ監督の『ベルベット・ゴールドマイン』(98、左)、ボブ・ディランを描いた同監督の『アイム・ノット・ゼア』(07、右)も公開され、特に前者は大ヒットを記録した。


 そんな『トレインスポッティング』の封切りから18年が過ぎた。 海の向こうではダニー・ボイル監督とユアン・マクレガーをはじめとするオリジナル・キャストが続編を撮る企画が進行中だ。もう若くない彼らの<中年の危機>が描かれるという。 


 時の流れは押しとどめることができず、シネマライズにも変化が起きている。『トレインスポッティング』が大ヒットした96年には地下と3階の2館体制として再スタートし、途中で小さな「ライズX」(04年より)も作られ、3館体制だったが、現在、映画館は3階だけとなり、地下はライブハウスの「WWW」となった。 


 1年前(2013年)に賴光裕社長と賴香苗専務にインタビューを行った時、昨今のシネマライズについて語り合った。 


 これまで多くの才能ある世界の作家たちを映画祭などで発掘して育ててきたシネマライズは、90年代は『ポンヌフの恋人』(91、ユーロスペース配給、27週)や『ポーラX』(99、ユーロスペース配給、19週)のレオス・カラックス、『奇跡の海』(96、ユーロスペース配給、13週)のラース・フォン・トリアー、『天使の涙』(95、プレノンアッシュ配給、22週)や『ブエノスアイレス』(97、プレノンアッシュ配給、26週)のウォン・カーウァイ等、世界を代表するアート系監督を数えきれないほど育ててきた。


 また、21世紀に入って『スプリング・ブレイカーズ』(13)が世界中で話題を呼んだハーモニー・コリン監督も、すでにデビュー作『ガンモ』(97)で才能を見抜き、その後も監督作を上映してきた(この劇場のお気に入り監督のひとりである)。


 この劇場は世の中の新しいトレンドを作りだすのもうまかった。中性的な美声で人々を魅了する歌手=カストラートの存在を世間に知らしめた『カストラート』(94、ユーロスペース配給、24週)、インドの新鮮なエンタテインメント感覚が大人気となって“マサラブーム”となった『ムトゥ 踊るマハラジャ』(95、ザナドゥー配給、23週)など、この劇場が流行の発信源となったケースも多い。 


 その上映リストを見ていると、あまりの多彩さと上映作品の質の高さに圧倒される。 


 作品の選び方について光裕社長と香苗専務はこう振り返る。 


 香苗専務「ライズっぽいと言われることがありますが、路線を固定しないことがうちの特徴で、次々にいろいろなものを上映してきました」 


 光裕社長「たとえば、『トレインスポッティング』が大ヒットして、また、『トレスポ』みたいなものがあるかというと、ないんですよね。音楽テンコモリ映画の究極の1本でした」 


 香苗専務「『ムトゥ 踊るマハラジャ』の時も、別のインド映画のオファーをいただきましたが、柳の下に二匹目のドジョウはいないと思っていました」 


 光裕社長「『ムトゥ』よりおもしろいものがあれば、上映する気はあるんですが……」 


 常に鮮度の高い作品を選び、渋谷の新しい文化の発信地のイメージを作り上げてきた劇場の方向性がふたりの話からはうかがえる。 


 80年代以降に登場したミニシアターとしては、六本木のシネ・ヴィヴァン・六本木と並び、先鋭的な作品を好んで上映していた映画館だが、その違いについて光裕社長はこう語る。 


 「それまでミニシアターにはシネフィルの流れがありました。蓮實重彦さんや山田宏一さんといった方々が作られた流れで、シネ・ヴィヴァンはそちらの系列です。でも、うちは美術、音楽、文学、ファッションなど、別のジャンルとつながる作品が多く、支持者は故今野雄二さんのような方でした。作品の見方はシネフィルより一般の視点に近かったと思います。だから、『トレインスポッティング』のかっこよさも分かりやすい形で伝えた。シネフィル系からは“あんなもの映画ではない”と言われていたのかもしれませんが……」 


 『トレインスポッティング』の場合は、サントラや原作小説の人気など、映画の話題だけにとどまらない広がりを獲得することで90年代のライズ最大のヒット作となったのだろう。 


 世紀の変わり目となった99年も忘れがたい年となった。その後、メジャーな話題作も手がけるダーレン・アロノフスキー監督とトム・ティクヴァ監督の映画を上映して、昼と夜、どちらの興行も絶好調だった。


 香苗さん「あの時は渋谷の夏がすごく熱くていい時でした。昼はティクヴァの『ラン・ローラ・ラン』(コムストック配給、20週上映)、レイトショーはアロノフスキーの『π』(GAGA=アップリンク)が当たりました。『π』はレイトなのに10週上映です。しかも、うちだけではなく、お向かいのシネクイントは『バッファロー66』、シネセゾン渋谷は『ロック、ストック・トゥ・スモーキング・バレル』が大ヒット。渋谷が映画で盛り上がっていて、あれは“奇跡の夏”だったと思います」


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