ライブハウスへの転身
ゼロ年代が終わった後、シネマライズが選んだのは地下の映画館をライブハウスにするという道だった。衛星放送のチャンネル、スペースシャワーの運営による「WWW」への転身だ。 2010年の11月にオープン。半年後の“3・11”の影響でブッキングに苦労した時期もあったが、今は好調をキープしている。
この選択について光裕社長は語る。 「エッジーなものとベタのものを混ぜてやっているようですが、一期一会がライブなので、かなり盛り上がっているようです。関係者がかつてはうちに熱心に通ってくれていたようで、こういう人に支えられていたことが分かりました。そこでカルチャーの“伝説の地”でスタートしたい、と言われました」
シネマライズへの取材から1年が経過した2015年の6月。「WWW」を初めて訪ねた。 入ってみると、場内は映画館時代の面影を残しつつも、新たに手を加えられ、見事にライブハウスに生まれ変わっている。200~250人が収容できるスペースだ。
その日(6月24日)の出演者はニュー・アルバムをリリースしたばかりのBLACK WAXと濱口祐自である。お客の入りはいいし、幅広い年齢層が来ている。
濱口佑自は還暦まじかでメジャー・デビューを飾った三重・熊野出身のブルース・ギタリストで、ライ・クーダーからエリック・サティまでトークをまじえながら弾きこなす。素朴な人間くささが魅力的なソロのライブだ。
一方、若い4人組のBLACK WAXは沖縄・宮古島で活動を続ける新鋭のジャズ・ファンクバンド。ゲスト出演の才人サックス奏者、梅津和時とのコラボレーションはとりわけスリリングだった。
濱口祐自とBLACK WAXを初めて見たのは吉祥寺のミニシアター、バウスシアターの閉館イベント(今年の6月1日)だ。 彼らのアルバムをプロデュースしているベテラン・ミュージシャン、久保田麻琴の仕事に興味があって、バウスシアターに行き、まだメジャーではない彼らのことを知った。
「WWW」でのBLACK WAXの演奏はバウスで目撃した時より、さらにアグレッシブで、パワフル。濱口のソロパートも含めての3時間は心から楽しめるライブ体験となった。終わった後、光裕社長の言葉がよみがえってくる。
「そのカルチャーを引き継いでいきたいと関係者に熱く語ってもらって決心しました」
渋谷の“伝説の地”は形を変え、新しい熱を放っていた。
◉シネマライズは、センター街側からスペイン坂を上り切った、渋谷区宇田川町13-17にあった。
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文:大森さわこ
映画ジャーナリスト。著書に「ロスト・シネマ」(河出書房新社)他、訳書にウディ・アレンの評伝本「ウディ」(D・エヴァニアー著、キネマ旬報社)他。雑誌は「ミュージック・マガジン」、「キネマ旬報」等に寄稿。ウエブ連載をもとにした取材本、「ミニシアター再訪」も刊行予定。
※本記事は、2013年~2014年の間、芸術新聞社運営のWEBサイトにて連載されていた記事です。今回、大森さわこ様と株式会社芸術新聞社様の許可をいただき転載させていただいております。なお、「ミニシアター再訪」は大幅加筆し、新取材も加え、21年にアルテス・パブリッシングより単行本化が予定されています。