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【ミニシアター再訪】第27回 渋谷系の流行、ミニシアターの熱い夏・・・その4  シネクイントの誕生とギャロ・ブーム

【ミニシアター再訪】第27回 渋谷系の流行、ミニシアターの熱い夏・・・その4  シネクイントの誕生とギャロ・ブーム

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ノーラン監督の出世作



 翌年の2000年にはロンドンの地下鉄をテーマにしたオムニバスのイギリス映画、『チューブ・テイルズ』(99、アミューズ)が15週のロングランとなった。こちらも『バッファロー'66』同様、本国では埋もれた作品だったが、ちょうどミステリーの『リプリー』(99)が公開されてジュード・ロウ人気が盛り上がった時に封切られることで、彼の監督作も含んだオムニバスということで注目された。



◉クリストファー・ノーラン監督の長編2作目『メメント』(00)は口コミ人気で広がり、リピーターも多かった。


 そして、この作品をシネクイントに提供したアミューズ・ピクチャーズ(後の東芝エンタテインメント、現在はショウゲート)が次にシネクイントに持ちかけたのが、ミステリーの『メメント』(00)だった。当時は無名の新人だったクリストファー・ノーランの監督作だ。 


 その後、『バットマン』3部作(05~12)や『インセプション』(10)といった大作を撮り、今やハリウッドを代表する売れっ子監督のひとりとなったノーランの出世作である。堤プロデューサーはこの作品の話が来た時のことを振り返る。 


 「初めて見た時、字幕がまだ入ってなかったんです。そのせいか、うちのスタッフたちはみんな乗れなくて、うちのイメージじゃないという声もありました。ただ、何か気になるので、字幕入りをもう一度、見せてもらいました。すると、ぐっと分かりやすくなっていて、『これはすごい映画じゃないか』ということになりました。すごく頭のいい人の書いたホン(脚本)だと思いました」 


 主人公は記憶喪失の男(ガイ・ピアース)で、彼は妻殺しの犯人を追っている。しかし、記憶が10分しか続かないため、ポラロイドで撮影した写真や自分の体に描いた数字や名前を頼りに事件の捜査を続ける。 


 そんな主人公の行動が時計の針とは逆回転の時間軸で描かれ、見る者を大いに混乱させる。カラーとモノクロを交互に使った映像構成も大胆で、こちらを最初から最後まで挑発し続ける知的なミステリーだ。 


 「公開前にクリストファー・ノーランに内容を簡単に説明してもらうナレーションを書いてもらい、それを上映前に、毎回流しました。内容が分からない、といわれるのが怖かったんです。でも、そんな不安は不要でした」 


 シネクイントでの封切りは01年の11月3日だった。 


 「初日はどこかに不安がありました。実際、1回目と2回目の入りはそうでもなかったんです。ところが、3回目の午後からすごい入りになったんです。その後はどんどん口コミで人気が広がり、ありゃりゃという感じで、毎週、興行が上がっていきました」 


 結局、25週の上映となり、1億5000万円の興行収入をあげ、約9万3000人の動員となった。難解そうに思えた作品の内容を考えれば快挙ともいえる数字で、この映画に関してはリピーターも多かったようだ。 


 「その後、クリストファー・ノーランはシネクイントから出ていますね、と言われるようになりました。劇場というより、配給会社の力だと思いますが、とにかく、彼の才能を世間に認めさせた作品ですよね。『バッファロー'66』もそうでしたが、この作品もうちだけの単館上映。こういう作品を都内で単館上映できる幸せな時期でした。単館公開すると、劇場に人があふれかえる熱気のある興行が実現できるんです」 


 都内の単館上映が実現したおかげで、『メメント』はシネクイントの歴代興行の第2位となっている。 


 「今ではシネコンが増えたので、映画のブッキングがいくらでもできます。もし、『メメント』のような作品がいま出てきたら、何館かで同時に上映して、そこそこ入って消えていく。そんな興行になったかもしれません。お客さんにとっては都内のいくつかの映画館での同時上映の方が便利かもしれませんが、その分、上映期間は短くなるし、作品への思い入れも半減します。かつては同じ映画を地方で上映していても、渋谷で見たいという観客がいたし、かなりのこだわりを持ってミニシアターでは上映していたわけです」 


 ちなみに『メメント』が当たっていた頃、向かいのシネマライズでは『アメリ』(01)を上映中で、こちらもすさまじいヒットとなり、35週の興行となっていた(シネマライズの歴代興行のナンバーワン)。渋谷のミニシアターの勢いは21世紀初頭も続いていた。 


 そんな勢いの中でシネクイントはよりエンタテインメント性の強い作品を上映することで、アート志向の強かったシネマライズとは別の路線を歩み始める。 


 エンタメ路線のひとつの突破口になったのが01年に上映されたSF映画のパロディ『ギャラクシー・クエスト』(99)だが、『スタートレック』の風刺版とも思える内容のコメディで、12週間のロングランとなり、配給元だったハリウッド系のメジャー会社、UIPのスタッフも大喜びだったという。 


 この作品の公開時は劇中の宇宙服を着た主人公たちの構成をなぞらえ、「男性5人の男と女性1人のグループで、女性が金髪で来場した場合、1人が1000円になる」という割引を行った。


 また、同じ年に14週のロングランとなったタイ生まれのスポーツ・コメディ『アタック・ナンバーハーフ』(00)はニューハーフのバレーボール選手の活躍を描いた作品だったので、「バレーのユニホーム姿の6人組は1000円になる」という割引を導入したところ、場内はジャージ姿の観客たちであふれ返ったという。オープン当初からシネクイントは他の劇場との差別化を図るため、上映作品にちなんだ扮装をしてきた観客は1000円(通常は1800円)で入場できたが、こうした遊び心が発揮された興行が、若い層をターゲットにしてきたシネクイントの特徴のひとつでもある。 


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