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【ミニシアター再訪】第28回渋谷系の流行、ミニシアターの熱い夏・・・その5 Bunkamuraの映画館、ル・シネマ

【ミニシアター再訪】第28回渋谷系の流行、ミニシアターの熱い夏・・・その5 Bunkamuraの映画館、ル・シネマ

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フランスの女性映画



 映画館のプレ・オープンは89年9月3日。ル・シネマ1で上映されたのはフランスの人気監督、クロード・ルルーシュ監督のフランス映画『遠い日の家族』(85)。また、ル・シネマ2ではドイツの怪優、クラウス・キンスキーが天才的な音楽家、パガニーニに扮した『パガニーニ』(89)。後者はコンサート・ホールも併設されたBunkamuraの個性を考慮に入れることで選ばれた作品だ(当初の客席数は164席と128席。現在は150席と126席になっている)。


 それまでヘラルド映画のビデオ部門で、シネマスクエアとうきゅうの上映作品のビデオ化にもかかわった中村プロデューサーであるが、Bunkamuraに入ったのはオープンの半年前。入社後はすぐに作品選定にかかわった。


 「最初の2本は当初から4週間と決まっていました。その後、東京国際映画祭の会場にBunkamuraが使われることになっていたからです。ただ、この2本のオープニング作品も予想以上に当たりました。ひとつにはBunkamuraというこれまでなかった施設が新鮮で、みなさんに興味を持っていただいたおかげだと思います」


 東京国際映画祭の後、10月7日からグランド・オープン作品として上映されたのが、フランスの女性彫刻家、カミーユ・クローデルを主人公にした伝記ドラマ『カミーユ・クローデル』(88、ヘラルド・エース配給)だ。



◉イザベル・アジャーニ主演の『カミーユ・クローデル』(88)、カトリーヌ・ドヌーヴ主演の『インドシナ』(92)。フランスの人気女優たちの作品が大ヒットした。


 「Bunkamuraができる前に東急百貨店の催事場で『カミーユ・クローデル展』が開かれたこともあって、私自身もそれを見たことがありました。カミーユの伝記映画の話を聞いた時、この作品でグランド・オープンできたら素晴らしいだろうな、と思っていましたが、それが実現できました」


 カミーユは彫刻家ロダンの愛人としても知られており、彼への愛と創造者としての葛藤をかかえながら、やがては精神を病んでいく。情念のままに生きるヒロイン役を演じるのはフランスの人気女優、イザベル・アジャーニ。ロダン役はフランスを代表する演技派男優で、後にル・シネマの大ヒット作、『シラノ・ド・ベルジュラック』(90)にも出演したジェラール・ドパルデューである。


 「あの頃のアジャーニは脂が乗り切っていて、日本にキャンペーンで来日した時も本当にきれいでした。カミーユはロダンと同じ時代を生きたがゆえに運命の歯車が狂ってしまいます。でも、それが不幸だったかどうかは分かりません。この時代を生きなければ語り継がれることがなかったかもしれないからです。当時の興行は圧倒的に女性客が多く、主婦層が中心でした。平日の朝や昼に、こんなにお客様が来るんだな、と驚かされました」


 最終的にこの作品は35週(のべ41週)にわたるロングランとなり、1億5000万円の興行収入を上げ、11万人を動員した。ル・シネマの歴代興行成績の第4位である。


 「この作品の興行を見て、Bunkamuraはこういうお客様をターゲットとして考えればいいのだな、と思いました。そこで女性の生き方を描いた作品を中心にした番組を組むようになりました。映画だけではなく、ザ・ミュージアムも女性の作家にこだわる傾向がありました。そこで美術館と連動して、Bunkamuraで一日過ごしていただけるように考えていきました」


 『カミーユ・クローデル』が当たった89年から90年にかけての日本はまだ経済状況も豊かで、好奇心がいろいろな方向に広がっていた。特に86年4月からは男女雇用機会均等法も施行され、社会に対する女性の意識も変化した。


 「当時はカルチャーの部分にも女性の意識や志向性が反映されていたと思います。ブランド物への好奇心も高まり、見たい、知りたい、着たい、食べたい、と自分の欲望に対して人々が貪欲になっていきました。また、自分が知らないことに対して、見なきゃ、知らなきゃという危機感もあり、分からないことに対して分からないと言えない。むしろ背伸びがかっこよく思えたものです」


 そんな時代を背景にして『カミーユ・クローデル』は大ヒットとなったわけだが、今、再見すると、ひたすら自身の情熱や情念に忠実に生きるヒロイン像に公開当時の社会が持っていた〝熱〟を重ねて見てしまう。


 アジャーニの主演作は95年2月には『王妃マルゴ』(94、ヘラルド・エース配給)もかけられ、こちらも26週(のべ37週)にわたるロングランとなる。1億3000万の興行収入で、歴代の第6位だ。主人公は奔放な愛に生きた16世紀の実在の王妃で、彼女を取り巻く人間模様を華麗さと残酷さが合体したダークな映像で描き出した歴史大作だ。


 「ここではアジャーニも目立ちますが、彼女だけではなく、実は男優たちもよかったんです。ジャン=ユーグ・アングラードやダニエル・オートゥイユも出ていて、彼らは当時の売れっ子でしたが、アジャーニの相手役を演じたのはヴァンサン・ペレーズでした。あの頃、〝目で妊娠させる男優〟なんて呼ばれ、女性に人気がありました。イケメン映画としても楽しめる作品なんですよね」


 そのペレーズがフランスのゴージャスな大スター、カトリーヌ・ドヌーヴの相手役をつとめたラブストーリーが『インドシナ』(92、ヘラルド・エース配給)。こちらは92年10月にかけられ、30週(のべ36週)の大ヒットとなり、1億5000万円の興行収入。歴代の第3位となっている。


 こうした華やかな女性路線が成功することで、ル・シネマは多くのヒット作を生み出していった。



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