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【ミニシアター再訪】 エピローグ

【ミニシアター再訪】 エピローグ

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映画館の意義



 劇場だけではなく、ミニシアターを支えていた独立系の配給会社にも変化が起きた。2013年にはウォン・カーウァイ・ブームを巻き起こしたプレノンアッシュが倒産、2014年の11月には独立系配給会社の老舗だったフランス映画社も破産申請した。 東映が配給し、フランス映画社が配給協力をしたテオ・アンゲロプロス監督の遺作『エレニの帰郷』が、2014年の1月にシネコンで封切られた時は、連載で初日の様子もレポートした(この会社の熱心なファンも来ていた)。


 ミニシアター・ブームの原点ともいうべき、シネマスクエアとうきゅうの閉館とフランス映画社の倒産。 これによって何かひとつの大きな時代が終わったような気もした。


 一方、2011年に閉館となった恵比寿ガーデン・シネマは2015年3月下旬に再度オープンするという。どんな劇場になるのか、いまはまだ全貌がつかめないが、その様子を見守りたいと思う。


 映画館全体に目をやると、デジタル化があっという間に進んだ(名画座の中にはプリントからデジタルに移行できず、閉館を余儀なくされた館もあった)。


 さらにシネコンの隆盛によって、複数スクリーンを持つ館が常識となりつつあり、劇場に行ってから見る映画を決める、という観客も増えた(ミニシアターがワンスクリーンしかないことに驚く若い観客もいるという)。


 また、近年のミニシアターは単館拡大という方式をとるようになった。同じ映画をいくつかのミニシアター(時にはシネコンも含む)で同時に封切るスタイルだ。


 そのため、上映週が短くなり、かつての『ニュー・シネマ・パラダイス』のように1館で1年近くロングランするという興行は今では考えられない(そのせいか多くの劇場の歴代興行記録の上位作品は80年代後半から90年代に生まれている)。 短いサイクルでどんどん新作がまわる時代となったのだ。


 これはインターネット時代のスピードなのかもしれない。ツィッターを見れば分かるように、ものすごいスピードで細切れの情報が流れていく。ニュースのサイトも、時間がかわるごとに、新しいニュースが流れ、前のものは消えていく。


 そんなスピードに追いつくために映画館にはどんな変化が必要なのだろう? ミニシアターだけではなく映画館の意義そのものも、問われ直している時代だろう。


 DVDやBDに関していえば、レンタル店では大半の作品が100円前後で借りられるし、セルの値段もぐっと下がり、ヘタに映画館に行くより安い。また、衛星放送でもすごい数の作品が日々流れている。 さらにユーチューブを見れば無料で世界中のさまざまな映像と出会える。時にはレアな映像やオリジナルな作品も発見できる。


 予告編にしても、かつては映画館に行かないと見られなかったが、近年、予告編を最初に目にする場所はインターネット上だ。 とても便利な時代だが、文化状況に関していえば、スピードばかりが優先されることで、失われてしまったものがあるはずだ。


 かつてを振り返り、現代の状況と比較することで、いまの時代に欠けているものが見えてくると思う(文化的な危機感を抱いている劇場関係者もけっこういた)。


 この連載のタイトル、「リビジット(Revisit)」には〝再訪〟だけではなく、〝検証〟という意味も含まれている。


 ネット連載はここで一旦終了し、ここからは本へと移行して、新たなリビジットが始まる。



前回:【ミニシアター再訪】第29回 神保町で立ちあがった「ミニシアター」の源流 岩波ホー


※プロローグはこちら



文:大森さわこ

映画ジャーナリスト。著書に「ロスト・シネマ」(河出書房新社)他、訳書にウディ・アレンの評伝本「ウディ」(D・エヴァニアー著、キネマ旬報社)他。雑誌は「ミュージック・マガジン」、「キネマ旬報」等に寄稿。ウエブ連載をもとにした取材本、「ミニシアター再訪」も刊行予定。



※本記事は、2013年~2014年の間、芸術新聞社運営のWEBサイトにて連載されていた記事です。今回、大森さわこ様と株式会社芸術新聞社様の許可をいただき転載させていただいております。なお、「ミニシアター再訪」は大幅加筆し、新取材も加え、21年にアルテス・パブリッシングより単行本化が予定されています。

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