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『異人たち』アンドリュー・ヘイ監督 観終わってもずっと作品が心に留まっていてほしい【Director’s Interview Vol.399】

(C)2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.

『異人たち』アンドリュー・ヘイ監督 観終わってもずっと作品が心に留まっていてほしい【Director’s Interview Vol.399】

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抑制して演出したシーンに涙が止まらなくなる



Q:本作には、あなた自身や両親も投影されているのではないですか?


ヘイ:パンデミックの間に自宅に閉じこもって脚本を書いたので、自分の人生を振り返ったのは事実です。ただし私の両親は存命中ですし、私との関係をそのまま描いたわけではありません。彼らの私への言動も映画とは異なります。それでも実際に両親と交わした会話は脚本の端々に入り込んでいるでしょう。私が思春期に抱えていた複雑な心情も反映されています。その意味で本作は「パーソナル」ですが、「自伝的」とは意味合いが違います。パーソナルとは、個人的感情を映画に注入すること。本作を観て、「これは監督の両親か。親との関係はこうだったのか」とは思わないでください(笑)。


Q:劇中に出てくるアダムのかつての家は、実際にあなたが暮らしていた家で撮影されたそうですね。


ヘイ:あの家は確かに私が住んでいた場所です。映画の中のアダムと同じように、私はロンドンから電車に乗ってかつての家に向かい、現在住んでいる人たちに撮影の許可をもらいました。劇中でアダムが手にする写真は、70年代の私と母が映っているものですし、アダムが父を目にする公園は私が子供時代によく遊んだ場所だったりします。



『異人たち』(C)2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.


Q:そこまで自分との関連が深い状況では、撮影しながらあなた自身が感極まったシーンもあったのではないですか?


ヘイ:アダムと母親のキッチンでの会話シーンは、実際の撮影では感情表現が過剰にならないように演出しました。だから私も冷静だったのですが、撮影した映像を観た時にアンドリュー(アダム役のアンドリュー・スコット)の演技に涙が抑えられませんでした。たぶん2,000回くらい観ていますが、そのたびに心が震えます。今も思い出しただけで泣いてしまいそうで……。あの瞬間、アダムは母親の前で子供に戻っているわけですが、アンドリューは瞬間的に若返ったかのようで、それはまさに彼の才能です。そしてベッドでのアダムと母親のシーンは、カメラを5分くらい回し続けましたが、やはり鳥肌が立ったのを覚えています。


Q:亡き両親と再会する場所へ向かう上で、原作や大林監督の映画版では主人公が地下鉄に乗ります。今回はロンドンからの電車が使われました。


ヘイ:自分がロンドンに住み、両親が郊外に暮らすという状況は、よくあるパターンです。アダムにとって「記憶をたどる」ために、電車に乗っている時間が必要でした。電車の揺れる心地よいリズムが、自分の知らない世界へ連れて行ってくれる感覚です。電車に座りながら、ある方向に導かれ、また元の場所へ戻ってくる。注目してほしいのは、アダムが最後に電車に乗るシーンです。そこで彼は、ハリー(同じマンションの住人)に会いたいという強い意志を示します。電車で座る方向で、私はそれを表現しました。そうした些細な演出の意図は、観客に気づかれないかもしれません。でも私はそんな風に登場人物の潜在意識をどう表現すべきか考えるプロセスが大好きなんです。観客とのコール・アンド・レスポンス(呼びかけと応答)のきっかけにもなりますから。





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