2019.01.04
痛々しい姿で紹介された、大人になったトト少年
もうひとつ、『ニュー・シネマ・パラダイス』が作り出した奇跡といえば、トトの子供時代を演じた、サルヴァトーレ・カシオだろう。シチリア島出身の彼は、8歳のときに『ニュー・シネマ・パラダイス』に抜擢されて映画初出演。ジュゼッペ・トルナトーレ監督はシシリア島に住む300人以上の少年の写真から、彼を選んだ。
その後、トルナトーレ監督の『みんな元気』(90)や、他に数本の映画に出演し、サッカーW杯のテーマソングを歌ったり、日本でもCMに出演したりと、華々しいキャリアをスタートさせたサルヴァトーレ。当時は「将来は映画のプロデューサーになりたい」などとも語っていた。しかし13歳で俳優業をほぼ引退。『ニュー・シネマ・パラダイス』が撮影されたシチリア島の村の近くの町で、レストラン兼ホテルを経営し、レストランでは、トト少年の顔をラベルに貼った、オリジナルのオリーブオイルを販売していたそうだ。
『ニュー・シネマ・パラダイス』© Photofest / Getty Images
ところが、2015年にNHK-BSで放送されたドキュメンタリー「もうひとつのニュー・シネマ・パラダイス」で、トルナトーレ監督と再会したサルヴァトーレは、黒いレンズのメガネ姿で登場。目を傷めてスーパーで働いていると紹介された。限りなく無邪気な笑顔で映画ファンを虜にした少年時代から一変したその姿は、『ニュー・シネマ・パラダイス』の中で、映画館の火災で失明したアルフレードと重なり、痛々しかった。
その後、サルヴァトーレ・カシオの目の病気が治ったのか。現在は何をやっているのか。今のところ確たる情報は入ってこない。失われた映画館文化へのノスタルジーをかき立てる『ニュー・シネマ・パラダイス』は、おそらくもう二度とその演技を観ることのできない天才子役の、一瞬の輝きを永遠に刻印することになったのだ。
文: 斉藤博昭
1997年にフリーとなり、映画誌、劇場パンフレット、映画サイトなどさまざまな媒体に映画レビュー、インタビュー記事を寄稿。Yahoo!ニュースでコラムを随時更新中。スターチャンネルの番組「GO!シアター」では最新公開作品を紹介。
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