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『汚れた血』前代未聞の疾走、スピードの魔法は伝染する

『汚れた血』前代未聞の疾走、スピードの魔法は伝染する

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『汚れた血』あらすじ

愛のないセックスで感染する奇妙な病気「STBO」が蔓延する近未来のパリ。父の不可解な死の後、アレックスは父の友人マルクからSTBOウィルスを盗む犯罪に誘われるが、彼はマルクの愛人アンナに魅かれてゆく…。


Index


前代未聞の幸福へ



「前代未聞の幸福に到達すること。お腹が痛くならない、前代未聞の幸福の探求。」(レオス・カラックス)*1


 セットで作られた空想のパリ。夢見られた街角。アレックス(ドニ・ラヴァン)は馬肉屋とホテルに挿まれたストリートを疾走する。街路のただなかに愛を発見する。夢に見ていたような軽さに向かって。このときアレックスはスピードの恍惚のさなかにいる。ラジオから流れるデヴィッド・ボウイの「モダン・ラヴ」が、“前代未聞の幸福”に向けてスピードを加速させていく。しかし望外の幸福は、アンナ(ジュリエット・ビノシュ)の鼻歌によって中断される。猛烈な不安がアレックスを襲う。アレックスは急ブレーキをかけるように力強く立ち止まり、全力でアンナの部屋に戻る。部屋に戻ったアレックスは、アンナの不在を知る。そこにはアンナがベッドで寝ていた“刻印”だけが残っている。アレックスが解き放ったはずの愛は、街路のただなかで迷子になる。アレックスは、再び“孤児”になる。幸福の絶頂に向け、宇宙へと羽ばたくはずだったダンスが、不意に中断される。


レオス・カラックス映画における強烈なエモーションは、この切断された断面=壁に浮かび上がる。アレックスを追いかけるリーズ(ジュリー・デルピー)が、地下鉄の電車の窓ガラスに遮断され、激突を起こしたように。宇宙と地面を高速で行き来する感覚。高低差。その激突の目まぐるしさ(ハレー彗星が地球に接近しているという終末的世界)。手先が器用なアレックスのカードさばきのように、イメージは次々とシャッフルされる。まさしく手品のような映画である。当時25歳のレオス・カラックスが撮った、永遠のマスターピース『汚れた血』(86)には、幸福と不安の両極をトップスピードで行き来する魔法の感覚が備わっている。この映画の魔法は世界中に伝染している。遠いアメリカの地で、ウェス・アンダーソンは本作に「強烈な魔法をかけられた」。



『汚れた血』4Kレストア版


 アレックスは原因不明の胃痛に悩まされている。腹の中にコンクリートが詰まっているような感覚だと、友人に語っている。刑務所に収監されていたアレックスは、出所直後に父親を失う。車輪とレールが摩擦するフランジ音が、地下鉄のホームに耳を突き刺すように響く。アレックスの父親はホームから身を投げる。あるいは何者かによって突き落とされる。自殺なのか他殺なのか。それはアレックスにとって大きな問題ではない。「とうとう孤児さ」。孤児となったアレックスは、過去を捨て、人生をやり直そうとする。アレックスにとって孤児になることは、生まれ変わるチャンスなのだ。


 “恐るべき子供”の登場として称賛された長編デビュー作『ボーイ・ミーツ・ガール』(84)の発表後、レオス・カラックスはカイエ・デュ・シネマにおけるフィリップ・ガレルとの対談で、本作の初期構想を語っている。


「今準備している映画は、ようやく孤児になったことを利用して人生をやり直そうとする少年の物語だ。痕跡を残さずに、フランスと恋人の元を離れる。しかし人生をやり直すには多額の費用がかかるため、彼はカップルから提案された危険な最後の仕事を受け入れる(少年は無法者だ)。そして本人の意思に反し、30歳の女性に恋をして、その地に残ってしまう。」*2




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