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『汚れた血』前代未聞の疾走、スピードの魔法は伝染する

『汚れた血』前代未聞の疾走、スピードの魔法は伝染する

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爆発的=固定的



 『汚れた血』が表紙の1986年11月号のカイエ・デュ・シネマには、ジャン=イヴ・エスコフィエへの“白紙委任状”が掲載されている。本作のインスピレーションとなった様々なイメージ群。エティエンヌ・ジュール=マレーによる連続写真をはじめ、モーリス・タバールの「Hand and Woman」や、ジャック=アンリ・ラルティーグによる初期の飛行写真等が添えられている。この中でアンドレ・ブルトンが「爆発的=固定的」という概念の説明として添えた、マン・レイによるダンサーを捉えた写真作品は、本作をもっともよく表わしているように思える。爆発的に、情熱的に静止しているダンス。「爆発的=固定的」という概念は、映画の冒頭を飾る白鳥のイメージ、何より特別なラストシーンのイメージとも重なっている。また、この“白紙委任状”には、ジャン=イヴ・エスコフィエによる、本作の撮影、カメラアイへの“心構え”ともいえる美しい言葉が綴られている。「眠っている者は、常に一歩先を行っている。その眠りを壊さないこと」。「そっとまぶたを持ち上げ、傷つかないように最善を尽くして目を開ける」。


 レオス・カラックスとジャン=イヴ・エスコフィエは、撮影前に色彩パレットについて入念に話し合っている。本作がカラーで撮られたのは、白黒で撮られた長編デビュー作『ボーイ・ミーツ・ガール』への反動である。レオス・カラックスは色が怖かったと告白している。アレックスとアンナとマルクがスカイダイビングするパラシュートのシーンが象徴的だが、『汚れた血』には、不可能と思える撮影や、自分の恐怖を乗り越えるというテーマがある。本作のカラーパレットは、セット撮影の利点を活かし、不要な色を取り除いている。白黒のキャンバスの上に必要な色だけを塗っていくようなイメージで構想されたという(赤・青・黄色)。次作となる『ポンヌフの恋人』では、夢のように構築されたセットを抜け出し、本物のパリの街路へ向かうことになる(とはいえ、ポンヌフの橋のセットを作ることになるわけだが)。



『汚れた血』4Kレストア版


 セットと俳優の間に視線の変容が生まれる。マルクとハンス(ハンス・メイヤー)、アンナのいる馬肉屋はガラス張りである。レオス・カラックス自身が演じる“覗き屋”が、窓の外から黙ってアンナを見つめている(“覗き屋”は『ホーリー・モーターズ』(12)の冒頭のレオス・カラックスとつながる)。初恋の人に似ている“覗き屋”からの視線を、アンナは受け入れている。夜中以外は。アレックスは彼のことを羨ましい職業だと語る。窓ガラスという壁、透明な鏡が問題となる。視線が問題となる。アレックスは、アンナとマルクの親密な様子を窓の外からただ見つめる。アンナは鏡の向こう側にいる。あるいはスクリーンの向こう側にいる。アレックスの視線はそれを記録する“カメラ”、あるいはスクリーンに投射された映像を見る観客となる。「鏡に映る女は美しい」という彼自身の言葉をなぞるように。




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