2025.04.08
『Love Letter』あらすじ
神戸に住む渡辺博子 が、山の遭難事故でフィアンセの藤井樹 を亡くして2年が経った。三回忌の帰り道、樹の家を訪れた博子は、樹の中学時代の卒業アルバムから彼がかつて住んでいた小樽の住所を見つけ出した。 博子は忘れられない彼への思いをいやすために、 彼が昔住んでいた小樽=天国へ一通の手紙を出した・・・。ところが、あろうはずのない返事が返ってきた。やがて、博子はフィアンセと同姓同名で中学時代の同級生、ただし女性の藤井樹が 小樽にいることを知る。博子の恋 樹の恋。一通のラヴレターが埋もれていた二つの恋を浮き彫りにしていく。
Index
長編デビュー作にしてマスターピース
平成初期から精力的に作品を発表し続けてきた岩井俊二監督は、幅広い層のファンを持つ映画作家だ。彼の代表作を一本だけ選ぶことは難しい。90年代には、初の劇場公開作となった中編『undo』(94)や、日本の架空の都市で生きる人々の姿を描いた『スワロウテイル』(96)があった。続く00年代には、『リリイ・シュシュのすべて』(01)と『花とアリス』(04)という、10代の少年少女の繊細な心の動きを捉えた作品を世に送り出している。そして10年代には、『ヴァンパイア』(11)、『花とアリス殺人事件』(15)や『リップヴァンウィンクルの花嫁』(16)があり、20年代には『ラストレター』(20)、『キリエのうた』(23)があった。
今日に至るまで30年以上、私たちは岩井監督の作品を享受し続けてきた。映画の好みが人それぞれなのは当然だが、やはり各世代ごとに熱く支持される作品があると思う。映画は単なる娯楽ではない。スクリーンは新しい世界をのぞくことができる「窓」であるのと同時に、現実社会を映し出す「鏡」でもあるだろう。個々の作品には、制作・公開当時の社会の空気がパッケージングされているのだから。
そんな岩井監督のフィルモグラフィーの中から代表作を一本だけ選び出すとするならば、それはやはり『Love Letter』(95)となるだろう。これは岩井監督にとって初長編作品でもある。
『Love Letter』【4K リマスター】©フジテレビジョン
物語は、神戸からはじまる。渡辺博子(中山美穂)は、2年前に山での遭難事故によりフィアンセの藤井樹を亡くした。三回忌の帰りに樹の家を訪れた博子は、彼の中学時代の卒業アルバムをめくっているうちに、かつて樹が住んでいたという小樽の住所を見つけ出す。そして彼女はこの小樽の住所宛てに、一通の手紙をしたためる。
拝啓、藤井樹様
お元気ですか?
私は元気です。
──と。するとまさかの返事が戻ってきた。しかも相手は自身のことを「藤井樹」だと主張している。だが、どうやら女性らしい。やがて博子はこの「藤井樹」という人物が、フィアンセの中学時代の同級生であったことを知る。博子は愛する者を失った悲しみを抱えたまま、親しい友人である秋葉茂(豊川悦司)とともに、小樽へと向かうことになる。
本作で展開するのは、渡辺博子の視点による現在の物語と、彼女の文通相手である藤井樹の視点による過去の物語。このふたりの女性を一人二役で中山美穂が演じている。岩井監督がテーマとして描こうとしていたのは“純愛”だろうか。それとも、この物語の軸になっている“喪失”だろうか。
1995年に誕生した本作は、日本国内のみならず海外でも大人気を博し、岩井監督が手がけてきた映画の中でも、もっとも広く長く愛されている作品だ。彼の長編デビュー作にしてマスターピースなのである。