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『Love Letter』時を超えて届くメッセージ、1995年という時代

©フジテレビジョン

『Love Letter』時を超えて届くメッセージ、1995年という時代

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1995年という時代



 『Love Letter』が公開された1995年といえば、世間を、いや世界を揺るがすようなとてつもなく大きな事件が起こった年である。


 本作の国内における封切り日は3月25日。その数日前の3月20日にはオウム真理教による「地下鉄サリン事件」が東京で起き、1月17日には「阪神・淡路大震災」が起こっている。後者は抗いがたい自然災害だが、前者は人間が引き起こした災害だ。これらによって、多くの人々が不意に命を奪われた。映画制作には大変な時間がかかるのだから、『Love Letter』はこれらの出来事とはある意味では何の関わりもない。はるか前に企画が立ち上がり、撮影まで終えていたはずなのだから。


 けれども「平成」を代表するこのふたつの出来事を、『Love Letter』は奇しくも背負うことになってしまったのではないかと思う。優れたアーティストたちがそうであるように、岩井監督も時代の流れを読み、社会に漂う空気を掴むことができたのかもしれない。“純愛”と“喪失”を描いた本作が1995年の3月25日に公開されたのには、運命めいたものを感じずにはいられない。そういった意味で『Love Letter』は、「阪神・淡路大震災」や「地下鉄サリン事件」と無関係ではないだろう。



『Love Letter』【4K リマスター】©フジテレビジョン


 とはいえこれは、あの時代からそれなりに時間を経た世界を生きる者たちだけが、それなりの安全地帯からのみ言えることなのだと思う。1995年の3月25日は、誰もが映画どころではなかったのが正直な話だろう。大切な人の今日が奪われ、自分自身の明日がどうなるのかも分からない。そんなときに映画など、不要不急どころか無用の長物だ。それでも、映画を欲する人々がいた。それが1995年という年でもあるのではないだろうか。


 あの当時の市井の人々が、映画というものに何を託し、何を望んだのかまでは分からない。神戸や東京から生まれた人々の感情は、あらゆるかたちで日本中に伝播していった。それでもやはり、いや、そうだったからこそ、“純愛”と“喪失”を描いた『Love Letter』は人々の感情と共鳴するように、広く受け入れられたのではないだろうか。REMEDIOSが手がけた優しい音楽とともに。





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