2025.04.08
現代人にも通じる、30年前に書かれた手紙
どのような映画にも、作り手たちが社会に訴えかけようとするメッセージが込められていて、その一つひとつに観客は打ちのめされたりするものだ。いくら時代が変わっても、制作・公開当時の社会の空気がパッケージングされた映画そのものは変わらない。時間の流れとともに変わるのは、私たち観客のほうである。そして観客が変われば、映画に込められたメッセージの受け止められ方も変わる。30年前に書かれた手紙の内容が、現代人に通じるかは分からない。
それでは、封切り日から30年以上の時を経た『Love Letter』はどうだろうか。本作に込められたメッセージは、現代の観客にも正確に届くのだろうか。
『Love Letter』【4K リマスター】©フジテレビジョン
渡辺博子は文通をとおして愛する人の過去を知り、彼が命を落とした雪山へと、秋葉茂とともに向かう。そこで彼女はこう叫ぶ。
お元気ですか?
私は元気です。
──と。何度も何度も、彼女は繰り返し叫ぶ。すると、同じ言葉がこだまする。博子の心の中に住む愛する人が、まるで返事をしているかのようだ。
私たちの社会はいつも、克服することや乗り越えること、立ち直ることを求めてくる。けれども、大切な何かを失った悲しみというのは、果たして本当に克服すべきものなのだろうか。失ったものは取り戻すことができない。それならばその事実を、喪失による痛みを、受け入れ、抱えたまま、生きていけばいいのではないか。忘れる必要なんてどこにもない。心に住まわせたまま、一緒に生きていけばいい。一緒に生きていくしかない。
渡辺博子が必死に叫ぶ姿は、そう訴えているように思う。『Love Letter』から読み取ることができるこのメッセージは、現代はもちろん、未来の観客にも届くことだろう。スクリーンは新しい世界をのぞくことができる「窓」として機能し、現実社会を映し出す「鏡」にもなり得る。それはきっと、どれだけ時代が変化しても変わらないこと。『Love Letter』がマスターピースであり続けるゆえんである。
文:折田侑駿
文筆家。1990年生まれ。主な守備範囲は、映画、演劇、俳優、文学、服飾、酒場など。映画の劇場パンフレットなどに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。敬愛する監督は増村保造、ダグラス・サーク。
『Love Letter』【4K リマスター】
TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開中
配給:TOHO NEXT
©フジテレビジョン