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新しい潮流を生み続ける『リリイ・シュシュのすべて』の先駆性とは

新しい潮流を生み続ける『リリイ・シュシュのすべて』の先駆性とは

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圧巻のエモーションで描く14歳の閉塞世界



 ジョン・レノンが暗殺された日――1980年12月8日、この世に生を受けたリリイ・シュシュ。2001年10月6日に公開された日本映画『リリイ・シュシュのすべて』は、この架空のカリスマ歌姫(演じるのは当時新人歌手だったSalyuだが、劇中ほとんど姿を現さない)をめぐる少年少女たちの物語だ。中学二年生の蓮見雄一(市原隼人)は、クラスメイトの星野修介(忍成修吾)らから理不尽なイジメを受ける日々。雄一の心の支えは、全身全霊で崇拝するリリイ・シュシュの音楽のみ。彼は発売されたばかりのニューアルバム『呼吸』を、宇都宮の駅前のCDショップ(TSUTAYA)で万引きしようとする。


 雄一にとっては、リリイ・シュシュがレノンの死と入れ替わるように生まれてきたという逸話すら重要ではない。彼は「フィリア」というハンドルネームで熱烈なリリイ・シュシュ評を書き込む。「彼女に他人の音楽なんて必要ないのだ。彼女は音楽を妊娠し、出産する。エーテルという名の羊水が、彼女の音楽をはぐくむ。ただそれだけだ」――。



 この孤独な少年を中心に、本作は14歳の痛みにまみれた世界を、悲鳴や絶叫のような圧巻のエモーションで描いていく。キラキラした学園生活の虚飾を剥がして、グロテスクな内臓が露出したように。雄一のクラスでは、男子にも女子にも「負の連鎖」が渦巻いている。例えば星野に弱みを握られている津田詩織(蒼井優)は援助交際を強要され、心を病んでいく。星野のグループに強姦された久野陽子(伊藤歩)は、翌日自ら坊主頭で登校し毅然とした態度を示す。


 彼らの日常は、まるで戦場だ。一見のどかに見える地方都市の郊外で密かに巻き起こる、大人たちの知らない加害者と被害者の反転、心の闇、自殺……。146分の尺だが、凡百の大作を遥かに超えるボリューム感でずっしりカラダにくる。凄まじい音圧の怪物的なシンフォニーといった印象だ。


 監督の岩井俊二は、本作の発表当時「遺作を選べるならこれにしたい」と公言した。この言葉どおり、以降の彼は精力的なペースで作品を発表していたそれ以前に比べるとずいぶん寡作になっていく。



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