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新しい潮流を生み続ける『リリイ・シュシュのすべて』の先駆性とは

©2001 LILY CHOU-CHOU PARTNERS

新しい潮流を生み続ける『リリイ・シュシュのすべて』の先駆性とは

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90年代に根付いた岩井俊二の王道イメージ



 筆者は公開当時、この作品に魂が震えるほどの衝撃を受け、年間のベストワン映画に選出。岩井俊二の中でも別格のマスターピースだとずっと信じ込んできた。だが、この意見はむしろ少数派で、意外に賛否両論あったように記憶する。少なくとも30代後半以上の映画ファンで、「岩井俊二的」なものをイメージする時、本作のハードコアで壮絶な作風を思い浮かべる人はほとんどいないだろう。


 では「岩井俊二的」なる作風のメインとはいかなるものか? それは1993年にテレビドラマ(CX系)として放送され、再構成した劇場版が1995年に公開された伝説的傑作『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』に端を発する、甘酸っぱい青春模様とスタリッシュな映像感覚の融合だろう。少女マンガ的とも評された感性とフォーキーな抒情を、華麗なテクニックで独自に洗練させた『Love Letter』(1995年)は岩井ワールドの代名詞的な一本としてアジア中を席捲し、『四月物語』(1998年)もその延長にある。さらにスタイリッシュな映像感覚は、無国籍風のアジアン・ファンタジーを展開した『スワロウテイル』(1996年)で極められ、これは主演のCHARAを中心とする劇中バンド、YEN TOWN BANDの楽曲も話題を呼び、配収6億円のメジャーヒットを記録した。


『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』予告


 まさしく1990年代、岩井俊二は米国のクエンティン・タランティーノや香港のウォン・カーウァイと並び、当時の映画小僧やカルチャーマニアが憧れる人気若手映画作家の筆頭だったのだ。例えば大根仁(1968年生まれ)は、テレビドラマ版『モテキ』(2010年/テレビ東京系)の第二話「深夜高速~上に乗るか 下に寝るか~」で、『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』を形式・技法ごとコピーするという破格のオマージュを捧げ、それが脚本・大根仁、プロデュース・川村元気(1979年生まれ)、監督・武内宣之(1967年生まれ)、総監督・新房昭之(1961年生まれ)という布陣でのアニメーション・リメイク(2017年)という流れにつながった。


 ゼロ年代以降の作品でも『花とアリス』(2004年)などは「岩井俊二的」なものの王道として、ファンに歓迎されたように思う。以上の作品群に共通するのは、岩井俊二のサニーサイド――甘酸っぱい物語性と洗練された映像センスを純粋培養した「箱庭」的世界の幸福感と言えるかもしれない。



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