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『リバーズ・エッジ』からさかのぼって考える、天才漫画家・岡崎京子と映画をめぐる深い関係

『リバーズ・エッジ』からさかのぼって考える、天才漫画家・岡崎京子と映画をめぐる深い関係

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※2018年2月記事掲載時の情報です。

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原作リスペクトに徹した伝説の漫画『リバーズ・エッジ』の見事な映画化



本当に観るのが怖かった。これほど上映開始の直前までびびっていた映画はない。


 1993年~94年に発表(宝島社の雑誌『CUTiE』連載)された岡崎京子の伝説的な漫画『リバーズ・エッジ』が、なんと約25年、四半世紀の歳月を経て映画化された。90年代を代表、いや象徴するこのマスターピースについて、青春期に直撃された世代は冷静ではいられないだろう。筆者もリアルタイム(ぎりぎり学生でした)で大変な衝撃を受け、長年心のベストテン第一位の座は揺らいでいない。


 果たして映画版は、この天まで届かんばかりの高すぎるハードルを飛び越えることができるのか? また当時と現在のリアリティを、いかなる必然を持って接続させるつもりだろうか?


 しかし、蓋を開けてみると……! これが驚くほど丁寧に、原作の精神や空気感に同期した見事な出来。課題の巨大さを真摯に受け止め、まっすぐ打ち返した良質の作りに感嘆してしまった。


 監督は行定勲。『世界の中心で、愛をさけぶ』(2004年)や『ナラタージュ』(2017年)などで使用した得意の回想形式も封じ、インターネットも携帯電話もない青春群像を現在と地続きのものとしてそのまま差し出した。それは岡崎漫画の普遍性を、いまの世に問い直す意図に裏付けられたものだろう。




 岡崎京子の漫画が映画化されるのは、今回が二度目だ。2012年に『リバーズ・エッジ』と双璧とも言える岡崎の後期傑作(ただしこちらは未完)『ヘルタースケルター』が、蜷川実花監督の手で実写になった。これは原作への共感を起点としつつも蜷川美学で大胆にハッキングし、主演・沢尻エリカの爆演を前面化するド派手な「ショー」として展開した。「見たいものを、見せてあげる」とのキャッチコピーと共に激しい賛否両論を呼びながらも、興収21.5億円の大ヒットになった。


 対して映画版『リバーズ・エッジ』のアプローチは、原作原理主義に近いものだ。むろん漫画のコマを単にトレースしているわけではなく、原作への深い愛と理解をもとに、全体を再構成して映画言語に翻訳している。岡崎が「平坦な戦場」(SF作家ウィリアム・ギブスンの詩からの引用)と呼んだ日常の殺伐と虚無の表象として、郊外の工業地帯を捉える槇憲治の撮影、世武裕子の音楽など、すべてがハイレベルの仕事。そして主題歌として、岡崎とは精神的な姉弟とも呼べる盟友、小沢健二が書き下ろしの新曲「アルペジオ(きっと魔法のトンネルの先)」を提供している。感涙……!


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