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映画『リバーズ・エッジ』の企画牽引者でもあった主演・二階堂ふみ
天才漫画家・岡崎京子が四半世紀前に発表した大傑作マンガを、驚くべき精度で実写として立ち上げた2018年の新作映画『リバーズ・エッジ』。この奇跡とも言える映画化に向けて最初に動いたのは、主演の二階堂ふみだという。
彼女が監督の行定勲と初めて会ったのは釜山映画祭。『映画芸術』2018年冬号の行定監督インタビューによると、彼が『ピンクとグレー』を引っ提げて映画祭に参加した2015年10月のことらしい(しかし実は2014年だった、という二階堂の発言もある。彼女は同年、主演作『私の男』で釜山映画祭に参加)。それから数か月後、ふたりは東京で再会。その際に「『リバーズ・エッジ』に興味がありますか?」といきなり二階堂が本題を切り出した。「じつは映画化したいんです。でも、もう時間がないんです。自分が大人になってしまったと思っているし」と(『文藝別冊 岡崎京子 増補決定版』河出書房新社より)。ちなみに釜山映画祭で二階堂を行定監督に紹介したのは、なんと韓国きっての鬼才監督、キム・ギドクだったとのこと。
二階堂は16歳の頃、ヴェネチア国際映画祭でマルチェロ・マストロヤンニ賞(新人俳優賞)を受賞した『ヒミズ』(古谷実の傑作マンガを園子温監督が映画化)の美術スタッフから薦められて、初めて岡崎京子の原作を読んだ。この時点からすでにガチのファンから若い世代へと、岡崎京子という文化を受け継ぐバトンリレーは始まっていたのだ。
そして約半年後、たまたま某所から彼女に『リバーズ・エッジ』映画化の企画が持ち込まれた。当時17歳、現役の高校生だった頃。しかしそれは結局、立ち消えになってしまったらしい。だが二階堂の中で火種は残り続け、やがて炎がどんどん大きくなっていったということだろう。
また、これはいかなるめぐり合わせなのか、二階堂は岡崎京子の盟友であるミュージシャン、小沢健二とのつながりも得ていた。2015年12月に刊行されたニューヨークの新世代フォトグラファー、チャド・ムーア撮影による『near,far 二階堂ふみ写真集』(スペースシャワーブックス)に小沢がコメントを寄せていたのだ。小沢が書き下ろしの新曲「アルペジオ(きっと魔法のトンネルの先)」を提供した岡崎京子原作の映画に、二階堂が主演している――これはなんら偶然でも、単なる商業的な要請でもない。確かな信頼感に基づいたコラボレーションであることがわかるだろう。
つまり『リバーズ・エッジ』映画化という企画を牽引し、あらゆる意味での求心力となったのは、完全に二階堂ふみなのだ。他にも、複雑な自意識とセクシュアリティを持てあます男子高校生・山田役の吉沢亮は、『オオカミ少女と黒王子』(2016年/監督:廣木隆一)で二階堂と共演している。またこの作品で音楽を務めた世武裕子も『リバーズ・エッジ』組へ参加している。