70年代女優にも通じるタフで骨太の存在感を持つ注目株・土居志央梨
土居志央梨は1992年生まれの福岡県出身。彼女の過去の出演作で是非観ておきたい一本を挙げるなら『赤い玉、』(2015年)になるだろう。これは彼女が京都造形芸術大学の映画学科俳優コース在学時に出演したもので(当時四年生)、監督は同大学で教授・映画学科長を務める高橋伴明。女優としてのクレジットは三番目だったが、彼女の存在がいちばん印象に残った人も多かったのではなかろうか。
主人公は男性としての老いの苦悩や、なかなか新作を撮れない葛藤を抱えつつ、芸大の教授として学生たちに映画を教えている映画監督・時田(奥田瑛二)。土居はその教え子のひとり、愛子役を演じており、ゼミで学生たちが撮っている自主映画のヒロイン役も務めている。つまりは当時の彼女の現実と重なる要素の多い役柄と言えるだろう。
面白いくだりがある。ゼミ映画の撮影中、その監督を務める男子学生(愛子の彼氏)は役者の芝居ではなくモニターを見てばかり。指示はあいまいだし、内容もつまらない。やがて業を煮やした愛子は「おもしろくねーんだよ!」とブチ切れて絶叫、現場を立ち去っていく。
そのあと、呑み屋で、彼女は教授の時田にこう言って迫るのだ。
「先生、次の彼氏になってくれませんか?」
時田はすげなくこう返す。「……70年代ならいたけどな、そういう女優」
70年代と言えば、若き日の高橋伴明がピンク映画界で仕事をしていた頃だが、当時の日本映画界には、ロマンポルノやATGといったオルタナティヴ・ラインに越境しつつ、一般商業映画でも個性的な新進・若手女優たちが活躍していた。メジャーどころでは桃井かおり、あるいは中川梨絵、伊佐山ひろ子など……。土居志央梨にはそういった昭和世代に通じる骨太の佇まいが感じ取れる。
『リバーズ・エッジ』© 2018「リバーズ・エッジ」製作委員会/岡崎京子・宝島社
そのポテンシャルの匂いを、『リバーズ・エッジ』は確信にまで押し上げてくれる決定的な一本だ。タフなふてぶてしさと、鋭利で繊細な感受性。傷だらけになっても擦り減らずに立ち上がってくるような魅力。ゴロッとした大玉の存在感を映画というフレームの中に差し出せる女優。今後、例えばポスト安藤サクラあたりの位置に躍進してくれたらいいなあ……と筆者は勝手に期待している。
文: 森直人(もり・なおと)
映画評論家、ライター。1971年和歌山生まれ。著書に『シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~』(フィルムアート社)、編著に『ゼロ年代+の映画』(河出書房新社)ほか。「週刊文春」「朝日新聞」「TV Bros.」「メンズノンノ」「キネマ旬報」「映画秘宝」「シネマトゥデイ」などで定期的に執筆中。
リバーズ・エッジ
2018年2月16日(金)より、TOHOシネマズ新宿ほか全国ロードショー
配給:キノフィルムズ
※2018年2月記事掲載時の情報です。