2023年9⽉20⽇(⽔)〜23⽇(⼟)に⽯川県加賀市にて開催された、⽇本初上陸のクリエイティブ・リトリート*イベント「THU JAPAN 2023(#THUJAPAN)」。
*:リトリートとは:住み慣れた⼟地を数⽇間離れて、仕事や⼈間関係で疲れた⼼や体を癒す過ごし⽅のこと。観光が⽬的の旅⾏とは違い、⽇常を忘れてリフレッシュすることを⽬的とする。欧⽶で流⾏している新しい旅や合宿のスタイル。
CINEMOREでは、数多くいる講師の中から映画に馴染みの深い4名に単独インタビューを実施。今回はその第三弾、『PERFECT BLUE』(98)『千年⼥優』(01)の脚本家村井さだゆき氏! ぜひお楽しみください。
村井さだゆき
脚本家。開志専⾨職⼤学アニメ・マンガ学部教授。第6回フジテレビヤングシナリオ⼤賞受賞。代表作に映画『PERFECT BLUE』『千年⼥優』(今敏監督)、『スチームボーイ』『蟲師』(⼤友克洋監督)の脚本や、TVアニメ『魍魎の匣』『夏⽬友⼈帳』『シドニアの騎⼠』『⼤雪海のカイナ』などのシリーズ構成があり、実写、アニメを問わず幅広い創作活動を続ける。
「THU JAPAN 2023」で行われた村井氏のワークショップ<物語記号学>と講演<物語の迷宮:私たちはなぜ物語るのか?>に実際に参加した上で、本インタビューを実施しました。
ワークショップ:物語記号学
物語における記号の役割に焦点を当てたセッション。記号学を学ぶことで、世界観を理解し、また創作の基盤を築く大きな手助けとなる。このワークショップでは、絵画やアニメ・マンガなどを題材に、物語の意味を記号学的な視点から捉え直すことを試みる。記号学を学ぶことで、世界の見方が大きく変わるだろう。
講演:物語の迷宮 私たちはなぜ物語るのか?
言葉を話す動物は他にもいるが、物語を作り伝え合うのは人間だけ。私たち人間はなぜ物語を生み出し、共有しようとするのだろうか? 一つの答えはそれが楽しいから、というものだろう。しかし、それは人類が物語の迷宮に迷い込んだ瞬間でもあった。我々現生人類が明確に物語を伝え合っていたであろうと推測されるのは遥か古代、洞窟壁画の時代に遡る。ラスコー洞窟やインドネシアのスラウェシ島の壁画が果たした役割は、おそらく私たちにとっての映画と同じものだったに違いない。それはフィクションの誕生を意味する。もう一つの答えは、フィクションを伝えるメディアの誕生でもあった。その時人類の脳に何が起こったのか? 文明の誕生になぜ神話が必要だったのか? そして近代にこれほど多くの物語が必要とされ、映画やマンガ、アニメーションといった視覚芸術を通じて、世界が物語を生み出し続けている秘密を、最新の認知科学と人類学的視点から読み解いていく。
Q:いつ頃から、脚本を書く作業における「記号学」について考え始めたのでしょうか。
村井:脚本家になる前からですね。僕は93年に書いた作品でシナリオ大賞を受賞し、そこから脚本家になったのですが、学生だった80年代終わりから、ずっとテーマとして独学で追い続けてきました。
Q:学校の授業などではなく、あくまで独学で学ばれたと。
村井:経済学部だったので、そもそも記号学の授業がなかったですね。どうも性格的にプラトンやアリストテレスと相性がいいみたいで(笑)、「世界の本質とはなんぞや」みたいなことを考えるのが昔から好きだったんです。脚本家になろうと思ったのは中学生くらいで、「物語というものは奇妙なものだぞ」ということが自分の根底にありました。そして、それはなぜかということをずっと考えて続けてきた。その結果、脚本家になれたのだと思います。
社会に出てからは広告代理店に就職し、その後フリーでプランナーをやっていたのですが、広告でも「記号と付き合う」ことがベースにあると思います。そうやって「記号の組み合わせにより意味が生まれる」ことと付き合い続けてきたおかげで、脚本を書く時にもその視点でキャラクターや作品世界を理解し、作っていくようになりました。
Q:村井さんが手がけた全ての作品には「人はなぜコミュケーションできるのか?」ということが裏テーマとしてあるとのことですが、同じくどの映画も「記号と付き合う」構造になっているのでしょうか。
村井:僕の作品はわかりにくいと、よく言われるのですが(笑)、わかりやすいものを求められる中で、「裏をかく」ということがずっとテーマにあります。「裏をかく」というのは、観客の裏をかくことでもあるし、同時にスタッフが求めている「裏をかく」ことでもある。全てにおいて「裏を返していく」ことを心がけていて、それが楽しいし、観客も喜んでくれるんです。
ポン・ジュノ監督作『殺人の追憶』(03)や、デヴィッド・フィンチャー監督作『ゾディアック』(07)など、「未解決事件」を扱った映画には傑作が多い。そしてここに、未解決事件を扱った新たなる傑作が誕生した。それが、3月15日(金)に公開されるドミニク・モル監督作『12日の殺人』だ。事件が解決しないという既成事実があるにも関わらず、何故こんなにも物語に引き込まれていくのか? 新たなる傑作を作り上げたドミニク・モル監督に話を伺った。
『12日の殺人』あらすじ
2016年の10月12日の夜、女子大学生クララが突然焼死体となって発見される。事件を担当することになったのは、昇進したばかりの刑事ヨアンとベテラン刑事のマルソー。クララの殺害が明らかに計画的な犯罪であることは判明したが、取り調べに浮上する人物たちを誰一人として容疑者と特定することができない...。事件解決への糸口が見えなくなるなか、班長に昇格したばかりのヨアンは、事件の闇へと飲み込まれてしまう。彼はまだ知らなかった。この事件が、未解決事件として自分自身を蝕んでいくことを…。
Q:前作『悪なき殺人』は緻密に組み立てられた謎解きの要素が強かったですが、同じミステリーでも今回は「未解決事件」。結末が最初からわかっている物語です。ご自身の中で課題はありましたか。
モル:未解決事件を描くにあたり、観客の興味とテンションを如何に失わずにいられるか、人間性や感情面のレベルもキープしつつ如何にテーマを伝えられるか。そこは大きな挑戦でした。
Q:ヨアンをはじめとする警察の捜査員たちは、悪と戦う正義の味方ではなく、生きていくために仕事をしている市井の人々として描かれます。何か意図したものがあれば教えてください。
モル:仕事に真剣に向き合いベストを尽くしている人々に興味があります。私自身も同じタイプで、映画を作るときは持てるものを全て出し尽くしたい。現場で「さて何を撮影しようかなぁ」なんて言っている人を見るとイライラします(笑)。
今回の原作はノンフィクションで、そこで描かれているのは警察の日常。悪党を追いかけるようなエキサイティングでヒロイックな瞬間ばかりではなく、事務作業に追われたり、不調なプリンターと格闘するといった、地味な日常がたくさん描かれていました。撮影前の1週間は、実際に警察の仕事に同行しましたが、原作本に描かれている通り地味な作業が多かった。だからこそ、日々犯罪を追っている刑事の日常はどういうものなのか?そこを描くことこそが面白いと思いました。映画を観た刑事の皆さんからは、「自分たちの仕事をここまで描写してくれたのは初めて」と言ってもらえました。
『12日の殺人』© 2022 - Haut et Court - Versus Production - Auvergne-Rhône-Alpes Cinéma
Q:今話していただいた通り、パソコンでの調書の作成、聞き込みへの道中、食事や就寝、テレビ鑑賞、そしてトイレの話題までと、地味な日常描写が積み重ねられます。それでも飽きることはなく、むしろ映画に引き込まれていく。これらにはどのような効果があったのでしょうか。
モル:そういった描写があることにより、キャラクターに繋がりや共感を持てるのかもしれません。暴力的で残酷な犯罪と対峙している刑事も皆人間、ずっと張り詰めることは出来ない。軽口を叩いたり、日常生活の話をすることも必要なんです。シリアスに仕事をしているシーンと面白い対比が出来たと思います。
2024年3月15日(金)から始まる映画をCINEMOREがセレクトしてご紹介!また、3月15日(金)から3月21日(木)までの1週間でテレビ放送される映画も、BSを中心にセレクトしています。
今週のオススメ、『デューン 砂の惑星PART2』『12日の殺人』『FLY!/フライ!』『ビニールハウス』が公開!
テレビでは、『シコふんじゃった。』『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』『戦場にかける橋』『八日目の蟬』が放送!お見逃しなく!
『デューン 砂の惑星PART2』
全宇宙の運命を賭けた決戦。夢のオールスターキャストが集結!全てがスケールアップし、壮大なる物語はクライマックスへ。
『12日の殺人』
第48回セザール賞にて最優秀作品賞を含む最多受賞。『悪なき殺人』ドミニク・モル監督最新作。テーマは“未解決事件”。
『FLY!/フライ!』
『ミニオンズ』のイルミネーション最新作は7年ぶりのオリジナルキャラクター。渡り鳥なのに移動したことがないカモ一家の物語。
『ミニオンの月世界』
『FLY! フライ!』と同時上映。人気アニメ『怪盗グルー』シリーズの短編アニメ。
『ビニールハウス』
ビニールハウスで暮らす訪問介護士の女。一瞬の選択が取り返しのつかない破滅に。現代の社会問題に根ざした濃密なサスペンス。
『薄氷の告発』
韓国スケート界を舞台に、指導者による性暴力に立ち向かう元選手の姿を描いた衝撃作。
『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』
1980年代、若松孝二が名古屋に作ったミニシアター「シネマスコーレ」を舞台に、映画と映画館に吸い寄せられた若者たちを描く。
『変な家』
YouTube総再生回数、驚異の1,700万回越え!覆面作家・YouTubeの雨穴による、前代未聞のゾクッとミステリーが映画化。
『RED SHOES/レッド・シューズ』
喪失を乗り越えバレエに心の開放を願う少女の物語。主演は世界最大のバレエ・コンクール金賞受賞者ジュリエット・ドハーティ主演。
『タイムマシン2024』
紀元前6500万年の地球を舞台に青年の冒険と成長を描くスペクタクル・アクション。「未体験ゾーンの映画たち2024」上映作品。
『キック・ミー 怒りのカンザス』
ホンモノ警官がパンツ一丁のスクール・カウンセラーに扮して駆けずり回る悪夢的バイオレンスコメディ。「未体験ゾーンの映画たち2024」上映作品。
『ブリンダーヴァナム 恋の輪舞』
『RRR』のNTRジュニア主演のテルグ語映画。恋にアクション入り乱れる極上のファミリームービー。
『恋わずらいのエリー』
藤ももの人気少女漫画を実写化。“ウラオモテ王子×妄想大好き女子”のノンストップ・ミラクルラブストーリー。
『きまぐれ』
最後の家族旅行の想い出に――。旅先できまぐれに彷徨う女たちと、取り残される父。とある一家の「家庭の事情」を描く珠玉の25分。
『私ときどきレッサーパンダ』
『インサイド・ヘッド2』公開に先駆けて、ディズニー&ピクサーの“泣ける名作”3作品を劇場公開。その第一弾。
『猫とピットブル』
ピクサーによる短編アニメ。『私ときどきレッサーパンダ』と同時上映。
『MONTEREY POP モンタレー・ポップ』
世界初の大規模なロック・イベント捉えた音楽ドキュメンタリー映画。ジミヘン、ジャニス、オーティスらの名演が4Kレストアの映像と音響でよみがえる。
『COUNT ME IN 魂のリズム』
史上最高のドラマー達が教えてくれる演奏の興奮と悦び。レジェンド達の伝説的プレーの数々から語り尽くされる音楽の軌跡とその情熱。
『MY SHINee WORLD』
韓国を代表するボーイズグループ“SHINee”が、これまで開催した6回の単独コンサートの映像をもとに、デビュー以来15年の軌跡を辿る。
理想のショットを極限まで追求し、何度もテイクを重ねる完璧主義者。神の如き視点から人類の歴史を俯瞰して、ニヒリズムとブラックユーモアに満ちた映画を撮り続けてきた厭世主義者。20世紀最後の巨匠スタンリー・キューブリックは、もはやその存在自体が伝説と化している。
1928年7月26日、ニューヨーク・マンハッタン生まれ。小さい頃から文学や芸術には強い関心を示していたものの、学業は決して優秀ではなかったという。やがて雑誌「ルック」のカメラマンとなり、それでも足りない生活費は得意のチェスで糊口を凌ぐ日々。一点透視図法を用いた構図は、カメラマン時代に培われたものだろう。
セルゲイ・エイゼンシュテイン、マックス・オフュルス、オーソン・ウェルズといった巨匠たちの名作に感激し、映画監督になることを決心。ある一人のボクサーを追いかけた短編ドキュメンタリー『拳闘試合の日』(51)で念願の監督デビューを果たすと、『恐怖と欲望』(53)、『非情の罠』(55)で高い評価を得る。盟友ジェームズ・B・ハリスと共に「ハリス・キューブリック・プロダクション」を設立して、『現金に体を張れ』(56)でハリウッドに殴り込みをかけた。
その後は『2001年宇宙の旅』(68)、『時計じかけのオレンジ』(71)、『シャイニング』(80)等々、映画史に残る傑作を次々に世に放っていったことは、皆さんご存知の通り。気がつけば、キューブリックが1999年3月7日に70年の生涯を終えてから、四半世紀という歳月が流れた。残された作品の本数は決して多くはないが、いまだに彼の作品は議論を巻き起こし、刺激を与え続けている。スタンリー・キューブリック珠玉の12本を紹介していこう。
1.『非情の罠』(55)67分
(c)Photofest / Getty Images
キューブリックが監督、製作、撮影、編集の一人四役をこなした、『恐怖と欲望』に続く長編映画第二作。引退間近のボクサーがギャングの情婦を救おうと奔走する、スタイリッシュなフィルムノワール。地下鉄やタイムズスクエアなどニューヨークの街並みを活かしたロケ撮影、男女の機微を真正面から描いた硬質なタッチが印象に残る。『恐怖と欲望』が大赤字だったため、親戚に4万ドルの借金をしてなんとか完成に漕ぎつけたものの、製作費は半分しか回収できなかったんだとか。なお、バレエダンサーのアイリス役で出演しているルース・ソボトカは、当時のキューブリックの妻である。
2.『現金に体を張れ』(56)85分
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キューブリックの記念すべきハリウッド・デビュー作。刑務所から出所したばかりの札付き者ジョニー(スターリング・ヘイドン)が、競馬場の売上金を強奪しようと大胆な犯罪計画を立案。競馬場の会計係、バーテンダー、悪徳警官、元レスラーなど、一癖も二癖もあるメンバーを仲間に引き入れて、のるかそるかの大勝負に打って出る。物語を直線的に語るのではなく、時制を前後させながら描くノンリニアなストーリー展開は、クエンティン・タランティーノ監督の『レザボア・ドッグス』(92)にも影響を与えた。ちなみに現金の読み方は<ゲンキン>ではなく、<ゲンナマ>です。
もっと詳しく!:『現金に体を張れ』キューブリックの才能を世界に知らしめたハリウッド・デビュー作
3.『突撃』(57)87分
© 1957 Harris Kubrick Pictures Corp. All Rights Reserved. © 2019 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved.
原作は、ハンフリー・コッブが1935年に発表した反戦小説『栄光への小径』。第二次世界大戦が間近に迫っていたことから、当時のスタジオが製作に及び腰だったといういわく付きの原作。戦後になったにも関わらず製作に踏み切らないスタジオに見切りをつけ、キューブリック自ら俳優のカーク・ダグラスに企画を持ちかけることで映画化を実現させた。塹壕のシーンは縦移動、突撃するシーンは横移動と、緻密に設計されたドリーショットが非常に効果的。冷笑主義者キューブリックには珍しく、ダックス少佐(カーク・ダグラス)が軍法会議で「彼らへの告訴は人類への欺きです」と訴えるシーンは、胸アツでエモーショナル。若き天才監督に初めて邂逅したカーク・ダグラスは、後に自叙伝で「アイツは才能あるクソッタレだ!」と評している。
もっと詳しく!:『突撃』スタンリー・キューブリックのエモーション溢れる反戦映画
昨年誕生した「新潟国際アニメーション映画祭」が今年も開催。2024年3月15日(金)から6日間にわたって開催される今回は、アイルランドのアニメーションスタジオ、カートゥーン・サルーン出身のノラ・トゥーミー監督が、長編コンペティション部門の審査員長を務める。
コンペティションだけにとどまらず、高畑勲レトロスペクティブをはじめとする特集上映やトークイベントなど、アニメーションにどっぷり浸れる6日間。来日を控えたノラ・トゥーミー氏に、本映画祭や日本アニメへの思いを語ってもらった。
Q:日本で開催されるアニメーション映画祭ですが、日本のアニメにはどんな印象をお持ちですか。
トゥーミー:日本のアニメは欧米で爆発的に受け入れられています。劇場や映画祭にファンが大勢詰めかけていますよ。私が日本のアニメに触れたのは大人になってから。既にアニメーションを学んだ後で、『AKIRA』(88)や『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』(95)から入りました。それまで、アニメーションは子供のものという認識でしたが、日本のアニメは大人を含めた多くの観客に対して作られている。ストーリーテラーとして、とても励まされたし希望が持てました。
Q:好きな日本のアニメ作品や監督はいますか。
トゥーミー:私も含めたカートゥーン・サルーン全体に多大な影響を与えたアニメーションは、『わんぱく王子の大蛇退治』(63 監督:芹川有吾)です。この映画はデザインワークも素晴らしく本当に美しい。見せ方の演出も秀逸で、とてもエピックで叙事詩のような壮大な物語。まるでホメロスの「オデュッセイア」を観ているような感覚がありました。映画の中では、小さな男の子が空を飛んだり、急に駄々をこねるように泣き出したりするのですが、そういったアニメーションを観たのも初めての体験でした。カートゥーン・サルーンの皆が影響を受けた映画です。
『わんぱく王子の大蛇退治』予告
あとはやはりジブリ作品ですね。ジブリ作品は全てが素晴らしいですが、特に『となりのトトロ』(88)は、自分の子供が小さいときに一緒に観て親近感を覚えた作品です。私自身が病を患っていたことから、母親の気持ちに感情移入してしまい、映画に入り込んでしまった記憶があります。先日、舞台版の「となりのトトロ」を子供たちと一緒にロンドンで観てきましたが、それもすごく良かったです。
テレビやSNSでは伝えきれない事実や声なき心の声を発信し続ける本気のドキュメンタリー作品に出会える場として、2021年より開催されてきた「TBSドキュメンタリー映画祭」。2024年の今回で4回目の開催となり、多くのドキュメンタリー作品が3月15日より全国6都市にて順次公開予定だ。TBSというテレビ局がなぜドキュメンタリーの映画祭を続けているのか?その意義とは? 本映画祭の企画・エグゼクティブプロデューサーを務める大久保竜氏に話を伺った。
Q:大久保さんは報道局 局次長であり報道コンテンツ戦略室長とのことですが、いわゆる“報道畑”は長かったのでしょうか。
大久保:新卒でTBSに入り30年ちょっと経ちますが、これまで担当したほとんどがバラエティーや情報番組。いわゆる“制作局”や、“情報制作局”という部署でした。報道に来たのは50歳を過ぎてからです。日曜朝の「サンデージャポン」も長く担当していまして、あの番組で使っているニュースはほとんどが報道の素材。その関係もあって、報道との付き合いは以前からありました。
Q:「サンデージャポン」といえば、この映画祭は爆笑問題の太田光さんがチェアマンになっていますね。
大久保:「サンデージャポン」「爆報!THEフライデー」など、太田さんとは昔からご縁があり、それでチェアマンをお願いしました。太田さんは本当に律儀で、全作品を観てくれているんです。しかも監督に会った瞬間に「観たよ!」と声まで掛けてくれる。監督たちは皆喜んでいますね。
Q:作品制作の社内公募では、ニュースやドキュメンタリーの担当者以外からも応募があったと聞きました。
大久保:この映画祭が始まったのは、TBSのアーカイブを元に作った映画『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』(20)のヒットがきっかけでした。それで最初は、アーカイブ作品を集めた映画祭を始めようとしていたのですが、社内の色んな部署から「自分もやりたい!」と手を挙げる人がたくさん出てきた。「昔撮った素材があって、追加撮影すると一本の映画になりそうです」など、色んな意見が出てきたんです。
『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』予告
今回の映画祭に出品している監督たちはTBSや系列局の社員が中心ですが、ドキュメンタリー制作をメイン業務にしている人は一人もいません。例えば、元々は制作をやっていて、今は管理部門にいる方から手が挙がったり、普段は政治記者をやっている人が「MR.BIG」を追いかけていたり、ドラマのプロデューサーがなぜか「イエスの方舟」追ったりしている。もちろん、所属部署の業務をやることは当然ですが、皆それぞれの上司に「今の仕事を頑張るから、隙間の時間でドキュメンタリー制作をやらせてくれ」と訴えたんです。
先ほどの「イエスの方舟」を追っているドラマプロデューサーは、「是枝監督も最初はコアなドキュメンタリーから始めてカンヌまで行ったんです!」と、熱く上司を口説いていました(笑)。自分のメインの仕事をこなしつつも、ライフテーマとして追い続けたいものがある。そういう人がこの映画祭を利用しようと社内で広がっていった。そういう嬉しい状況でした。
米アカデミー賞で女性監督がオスカーを射止めることが少なくなくなった昨今。2020年代に入ってからも『ノマドランド』(20)のクロエ・ジャオ、『パワー・オブ・ザ・ドッグ』(21)のジェーン・カンピオンが受賞している。2024年の第96回も『落下の解剖学』で、ジュスティーヌ・トリエが監督賞にノミネートされた。
そんなアカデミー賞において、女性監督に門戸を開いた存在といえば、やはりキャスリン・ビグローだろう。彼女は2008年に『ハート・ロッカー』でアカデミー監督賞を受賞したが、女性監督が同賞に輝いたのは82回の歴史の中で初めてのこと。しばしば保守的と揶揄されるアカデミー賞に、風穴が開いた歴史的瞬間だった。
そんなビグロー監督が、自作の中でもっとも好きと公言しているのが、キャリア初期の低予算映画『ニア・ダーク/月夜の出来事』(87)だ。彼女は1981年の『ラブレス』でモンティ・モンゴメリーと共同で演出を務め、監督デビューを果たしているが、単独での監督は本作が初。それだけに自身の思い入れも強い。本稿では、彼女のフィルモグラフィーの中では地味だが、見逃すわけにはいかない本作について語ってみたい。
『ニア・ダーク/月夜の出来事』予告
まずは簡単にストーリーを。カウボーイの若者ケイレブは、ある夜、メイという女性と出会い心惹かれる。ところが彼女は吸血鬼であり、人間を殺して血を吸わなければ生きていくことができない。幸いにも殺されずに済んだケイレブだったが、彼女に甘噛みされたことで自らも吸血鬼となってしまう。メイが行動をともにしている吸血鬼グループは、そんな彼を放っておくにわけに行かず、殺人行脚の旅に同行させる。しかしケイレブはどうしても人を殺すことができずにいた。一方、ケイレブの父は失踪した息子の行方を幼い娘とともに捜索し、やがて思わぬかたちで再会を果たす……。
ナイツ 塙宣之監督の秀作ドキュメンタリーです。僕は企画を聞いたとき、塙さんがYouTubeで展開している「劇団スティック」(テレ朝『警視庁・捜査一課長』に出演した際の演技がぎこちなく、セリフが「棒読み」とSNSで揶揄された塙さんが、それなら逆に芸人集めて「棒読み」劇団を旗揚げしてやると結成。劇団名の由来は「棒」=スティック)のような、おふざけ満載のブンブン振り回した映画になるかと思ったんですが、ぜんぜん違いました。これは非常にマジメな「東京のお笑い」についての映画ですね。
お笑いという言葉からどんな現場を思い浮かべるかは、本当に人それぞれだと思うんです。たぶん大多数の人は「テレビのバラエティー」の世界だと思っている。多少、関心のある人は「ネタ番組」の世界だと思っている。そしてアクティブ、コア層に属する人は劇場や小屋を思い浮かべる。まぁこの何十年、テレビも劇場も吉本興業が制圧しているような状態ですから、「お笑い=よしもと」を連想する方が多いと思うんです。だけど、東京には東京のお笑いがある。『漫才協会 THE MOVIE』は、その「東京のお笑い」の現場に映画をご覧の皆さんを案内してさしあげましょうという主旨ですね。映画の作り自体はとてもマジメで、わかりやすいものです。結果的にこれは浅草案内にもなっているのですが、浅草に一度も足を踏み入れたことのない若い観客にもすんなり伝わると思います。
映画の主たるロケーションになっているのは浅草六区の演芸場「東洋館」です。ここは「東京のお笑い」の伝説をギュッと凝縮したような場所ですね。かつてはフランス座という名のストリップ劇場でした。そこで踊り子さんのショーの合間を埋めていた「ストリップコメディアン」に八波むと志、関敬六、渥美清、萩本欽一、深見千三郎、ビートたけしといった顔ぶれがいた。浅草で芸を磨き、映画やテレビの世界に羽ばたいていったスターたちの残映が浅草六区にはあります。僕は駆け出しライター時代、国際通りを隔てた六区の間近(「どぜう飯田屋」の辺り)にワンルームマンションを借りて住み、フランス座(まだ最後の時期、残ってたんです!)の窓を見て、あぁ、欽ちゃんはあそこの窓から踊り子の奥さんからお金を投げてもらったのかなとか、井上ひさし(フランス座の学芸部員でした!)もこの通りをうろついたかなとか、夢想していたものです。だから今も東洋館へ行けばたけしさんがタップを踏んだ、『浅草キッド』に出てくるエレベーターの現物に乗ることができます。あぁ、あの場所に自分も立っているのだと感激することしきりです。
ですが、それは歴史ですよね。『漫才協会 THE MOVIE』が描いたのは今なんです。伝説や歴史の現場は今はすっかりエネルギーを失ってしまい、ノスタルジーで語られるしかなくなったのか。そんなことないですよ、こんなに「舞台の上の懲りない面々」がいますよ、っていう映画なんです。テレビで見たことのない芸人さん、テレビで見たことあるけど、ずいぶん長いこと見てないなぁという芸人さんがじゃんじゃん紹介されます。いちばんすごいなぁと思ったのは「漫才協会に所属してちゃんと会費も払ってるけど、いっぺんも東洋館の舞台に上がったことがなく、それどころか誰も見たことがない幻の芸人さん(塙さんが住所を頼りに訪ねてみる)」ですね。そのディープさというか、奥行きがハンパない。
「テレビで見たことのない芸人さん」は現在では「地下芸人」と呼ばれるじゃないですか。テレビで見ないアイドルを「地下アイドル」と呼ぶのと同じ、アンダーグラウンドな存在ですね。大概は若者か、若さの尻尾を引きずった感じの、夢をあきらめられない層です。イメージとして小屋は中野や下北沢にあったり、アイドルなら秋葉原のはずれにあったりかなぁ。だから浅草が拠点ってちょっと古いんですよ。「地下芸人」に近接した存在だけど、「地下芸人」ではない。年齢的には若者もいるけれど、もっと上が多い。古くて、今さらもうどうにもならないってキャリアの人が『漫才協会 THE MOVIE』にはバンバン出てくる。
『漫才協会 THE MOVIE ~舞台の上の懲りない面々~』(c)「漫才協会 THE MOVIE ~舞台の上の懲りない面々~」製作委員会
で、「古くて、今さらもうどうにもならない」人が魅力的なんですよ。もう業(ごう)のようなものが見える。カメラ前に慣れてないから、映画の映り方もちょっと変です。無駄に力が入っていたり、自意識が先に立ってたりする。そういうの込みで面白いんですよ。売れてようが売れてなかろうが、芸人さんがいる。生きることのすべてを投げうって舞台にかけている。その味わい、その素晴らしさですね。この映画は見終わると浅草に行きたくなります。東洋館に行きたくなります。
僕はTBSラジオ『ナイツのちゃきちゃき大放送』という番組で、ナイツさんと月イチでスタジオをご一緒する間柄なんですよ。塙宣之さんの人となりを知って、面白いなぁと思ったのは「あんまり浅草っぽくない人」だという点なんです。ナイツは漫才協会トップの売れっ子で、役付きでもあるから、先に挙げた欽ちゃん、たけしさんの系譜を継ぐ「浅草の代表格」ってイメージだけど、元々は大学のお笑いサークル出身ですよね。塙さんはYMO好きの、たぶんサブカルチャー側の若者だったと思う。影響が大きかったのは松本人志さんでしょう。で、プロになってから、浅草と接続したんです。内海桂子師匠の弟子になって、「東京のお笑い」の根っことつながった。
だから今、サンドウィッチマンやオリラジ、ハリセンボン近藤春菜らをスカウトして、浅草に接続しようとしている。「東京のお笑い」を再興しようとしている。『漫才協会 THE MOVIE』はその意思表示だと思うんです。
文:えのきどいちろう
1959年生まれ。秋田県出身。中央大学在学中の1980年に『宝島』にて商業誌デビュー。以降、各紙誌にコラムやエッセイを連載し、現在に至る。ラジオ、テレビでも活躍。 Twitter @ichiroenokido
『漫才協会 THE MOVIE ~舞台の上の懲りない面々~』を今すぐ予約する↓
『漫才協会 THE MOVIE ~舞台の上の懲りない面々~』
3月1日(金)より角川シネマ有楽町ほか全国ロードショー中
配給:KADOKAWA
(c)「漫才協会 THE MOVIE ~舞台の上の懲りない面々~」製作委員会
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今週のオススメ、『ゴールド・ボーイ』『DOGMAN ドッグマン』『アバウト・ライフ 幸せの選択肢』『i ai』が公開!
テレビでは、『プロジェクトA』『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』『カメラを止めるな!』『そして父になる』が放送!お見逃しなく!
『ゴールド・ボーイ』
原作は中国のベストセラー作家・紫金陳(ズー・ジンチェン)の「坏小孩」(悪童たち)。舞台を沖縄に移し日本映画化したクライム・エンターテインメント。
『DOGMAN ドッグマン』
規格外のダークヒーロー爆誕!リュック・ベッソンが、実際の事件に着想を得て脚本・監督を務めたバイオレンス・アクション。
『アバウト・ライフ 幸せの選択肢』
アナタは最高の人生を送っているか?不器用な大人たちの“幸せ探し”を描いた感動作。名優たちが奏でる“愛”と“人生”のアンサンブル。
『i ai』
マヒトゥ・ザ・ピーポー初監督作。撮影は佐内正史。実力派俳優陣とカルチャー界の重鎮が集結した新たな青春映画の誕生。
『映画 マイホームヒーロー』
同名の大ヒットコミックを原作とするテレビドラマの劇場版。ノンストップ・ファミリー・サスペンスがついに完結。
『PLAY! ~勝つとか負けるとかは、どーでもよくて~』
実話にインスパイアされた【eスポーツ】初の劇映画。<陽キャ×優等生×クセ強>の3人組が【全国高校eスポーツ大会】決勝戦へ!?
『青春の反抗』
世界最長の戒厳令が敷かれた台湾。戒厳令解除後の1994年、学生運動に参加した若者たちの自由、そして揺ぎない愛を描いた青春映画。
『デ ジャ ヴュ デジタルリマスター版』『季節のはざまで デジタルリマスター版』
いま再び、精密な夢のなかへ───。スイスの至宝 ダニエル・シュミットが誘う時を超える美しき傑作二本 デジタルリマスター版で初公開。
『エブリワン・ウィル・バーン』
スペインの小さな村。自らの人生を終えようとしていたマリアのもとに、奇妙な少女ルシアが訪れる。「未体験ゾーンの映画たち2024」上映作品。
『シークレット・キングダム ピーターの奇妙な冒険』
平和を失った王国の最後の希望。魔法に満ちた冒険が始まる。「未体験ゾーンの映画たち2024」上映作品。
『ネイビーシールズ ラスト・ソルジャー』
味方ゼロ、敵は無限大。地獄の戦場を生き抜け!「未体験ゾーンの映画たち2024」上映作品。
『仮面ライダーギーツ ジャマト・アウェイキング』
世界を創るのは神か?人か?人類滅亡へ導くジャマトの力、目覚める。TVシリーズ、そして夏映画のその後を描く「仮面ライダーギーツ」最新作。
『恐竜超伝説2 劇場版ダーウィンが来た!』
NHK人気自然番組の劇場版第5弾。巨大隕石の衝突にさらされた、恐竜たちのサバイバルストーリーを大迫力の高精細CG映像で。
『映画しまじろう ミラクルじまの なないろカーネーション』
「ありがとう」は大切な人を想う、魔法の言葉。映画しまじろうの10作目となる、こどもちゃれんじ35周年記念作品。
『ラストエンペラー 劇場公開版 4Kレストア』
『すべての夜を思いだす』あらすじ
高度経済成長期と共に開発がはじまった、東京の郊外に位置する街、多摩ニュータウン。入居がはじまってから50年あまりたった今、この街には静かだけれど豊かな時間が流れている。春のある日のこと。誕生日を迎えた知珠は、友人から届いた引っ越しハガキを頼りに、ニュータウンの入り組んだ道を歩き始める。ガス検針員の早苗は、早朝から行方知らずになっている老人を探し、大学生の夏は、亡くなった友人が撮った写真の引き換え券を手に、友人の母に会いに行く。世代の違う3人の女性たちは、それぞれの理由で街を移動するなかで、街の記憶にふれ、知らない誰かのことを思いめぐらせる。
途切れ途切れになっている子供の頃の記憶が、本当に自分の体験なのか、よく分からなくなることがある。視聴覚を含め、物の手触り、そのときの空気の匂い等、手掛かりとなりそうな記憶の欠片は確かにあるのだけど、一体全体なぜ自分がそのシチュエーションにいたのか、さっぱり思い出すことができない。その瞬間の記憶は強く残っているのに、付随する記憶がまるで思い出せない。もしかしたらこの記憶は大人になってから夢の中で見たものであって、実際には体験してないのかもしれない。まったく体験していないことを体験したのだと、ただただ勝手に思い込んでいるだけなのかもしれない。自分の中だけに広がる記憶の捏造。それはときに大いに不安にさせるが、同時に楽しくもある。あり得たかもしれない世界への可能性が開かれるような気がするからだ。
多摩ニュータウンを舞台にする清原惟監督の『すべての夜を思いだす』(22)は、夜明けの風景から始まる。まだ眠りから目を覚ましたばかりの街。歩行者のいない大通り。無人の公園。鳥の声。木々たちのざわめき。団地。マンションの前を掃除する人。少しずつ時間が経過していく。やがて陽光が降り注ぐ公園で、若者たちが音楽を演奏する風景が捉えられる。朗らかな会話や音楽が消え、上空を飛ぶ飛行機の音が重なっていく。そして再び風に揺れる木々のざわめき・・・。
『すべての夜を思いだす』©2022 PFFパートナーズ(ぴあ、ホリプロ、日活)/一般社団法人PFF
本作において街の音は、ふっと現れてはどこかへ消えていく。音が“クローズアップ”され、シャボン玉が割れるように消えていく。街の音を聞いているだけで心地がよい。ここには街との調和がある。そして本作は街の音、音の振動が、いったいどこに消えていくのか?ということを探求しているように思える。ふっと現れてはどこかへ消えていく音の粒に形はない。それは朧気な記憶、本当に体験したかどうかさえ怪しい記憶の破片とよく似ている。