2023年にテレビシリーズを制作
この作品はアカデミー賞では4部門、英国アカデミー賞では11部門の候補となり、前者ではオリジナル作曲賞、後者では作品賞、主演男優賞(ロバート・カーライル)、助演男優賞(トム・ウィルキンソン)も受賞。また、BFIが1999年に選んだ英国映画100選では25位につけている。
前述の英国版「ローリング・ストーン」の中でデ・モントフォート大学の教授のクレア・モンクは、「当時としてはすごく革新的なテーマを扱っていて、男性の肉体に対するイメージ、失業、ゲイ、黒人のカルチャーなど、いろいろな要素が入っていた」と、この映画の社会的な意義をふり返っている。
さらに貧困や失業した父親の権利、サッチャー政権後の変わりゆく工業地域の風景など、英国人が見ると身につまされる要素もふまえたコメディになることで、まさに英国の国民的なコメディとなった。
その後、ブロードウェイでミュージカル化され、英国では舞台作品としても演じられた。日本でも山田孝之主演で舞台化されている。また、ヘレン・ミレン主演で中年女性がカレンダーのモデルとなる『カレンダー・ガールズ』(03)、犯罪歴のある青年たちがウィスキーで一貫千金を狙うケン・ローチ監督の『天使の分け前』(12)、中年男性たちがシンクロナイズド・スイミングに挑戦する『シンクロ・ダンディーズ!』(18)など、この映画の系譜上にあると評されたコメディも作られている。
小品ではあるが、英国のコメディの流れを変えた作品と考えられているが、2023年にはディズニー・プラスの8話からなる配信シリーズも実現した。脚本はひき続きサイモン・ボーファイで、女性の脚本家、アリス・ナッターも加わっている。
ドラマ『フル・モンティ』予告
6人の出演者たちはそのまま続投。妻と別れたギャズは精神科病院の運搬係で、ティーンの娘との葛藤を抱える。幼かった息子のネイサンは警察官になっている。デイヴは学校の用務員だが、妻のジーンは出世して校長となっていて、同僚の教師との不倫に走る。ゲイのロンパーは現在のパートナーとささやかなカフェを経営していて、ジェラルドやホースはその常連客。ちょっとイケメン風だったガイだけが若い女性とよろしくやっている。ガイは出番がほとんどなく、他の5人は相変わらずパッとしない人生だが、そこに『フル・モンティ』的な味わいがあるのかもしれない。どんなに大変でさえない日々でも、人生は続いていく。
かつてのストリップは彼らの“遅れてやってきた青春”の思い出でもあり、その縁があって、今も友情は続いている。もはや、ストリップに挑戦できる年齢でもないが、仲間を大切に思う気持ちは消えない。
ドラマに関してカーライルは、「この作品はいつも自分のキャリアについてまわる温かい影のような存在だった。そこに戻ることができて、すごくうれしい」とBBCの記事(23年6月11日)で語っている。「前の作品が作られた90年代は“クール・ブリタニア”と呼ばれ、英国には活力があったが、25年後の今は社会的に厳しい状況に置かれている人も多い。そんな昨今の社会状況も反映された作品だ」とも。
老いに向き合いながら、しがない日々を送り、日常の中のわずかな希望を信じようする。そんな人々の姿は閉塞感のある今の日本でも共感できる人物像だ。夫よりも出世してしまったジーンや、音楽的な才能を秘めたガズの反抗的な娘など、女性脚本家の参加で、女性の人物像が目立つ点も興味深い。映画版のような勢いも小気味よさもないが、ヒューマンでしみじみとした味わいには捨てがたいものがある。年を重ねることでやさしい顔になったカーライル、妻との葛藤を好演するアディなど俳優たちもやはりいい。映画『フル・モンティ』が優れたキャラクター・ドラマだったことを再認識させるシリーズになっている。
文:大森さわこ
映画評論家、ジャーナリスト。著書に「ロスト・シネマ」(河出書房新社)他、訳書に「ウディ」(D・エヴァニアー著、キネマ旬報社)他。雑誌は「ミュージック・マガジン」、「キネマ旬報」等に寄稿。ウェブ連載を大幅に加筆し、新原稿も多く加えた取材本「ミニシアター再訪 都市と映画の物語 1981-2023」(アルテスパブリッシング)を24年5月に刊行。東京の老舗ミニシアターの40年間の歴史を追った600ページの大作。
(c)Photofest / Getty Images