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『フル・モンティ』90年代イギリスを代表する傑作ヒューマン・コメディ

(c)Photofest / Getty Images

『フル・モンティ』90年代イギリスを代表する傑作ヒューマン・コメディ

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監督の意図、ロバート・カーライルの思い



 当初はチャンネル4の製作で進められていたが、途中で予算が厳しいことに気づく。そこでアメリカのミラマックスに企画を持ちかけた。会社側は「これまで読んだ中でも、特にファニーな脚本のひとつ」と内容を絶賛したが、映画化に関しては別の監督と有名俳優を起用したいと言い出した。それでは脚本の真実味が失われてしまうと考えたパゾリーニは、ミラマックスで作るのを断念。一方、ミラマックスは同じく英国の失業者をテーマにした別の作品、『ブラス!』(96)をユアン・マクレガー主演で作ることになる。


 その後、カッタネオ監督の「Loved Up」がサンダンス映画祭で評価され、フォックス・サーチライトが監督に声をかけた。そこでカッタネオは4カ月持ち歩いていた『フル・モンティ』の脚本を見せ、この会社でゴーサインが出たという。


 ただ、低予算映画であることに変わりはなく、キャストやスタッフたちは毎日18時間、週に6日間、という厳しい条件の撮影を続けた。キャスティングに関しては、体形が異なる俳優たちを意識して選んだという。そして、踊りを通じて彼らの間には絆が生まれ、いつも笑いが絶えない現場だったそうだ。



『フル・モンティ』(c)Photofest / Getty Images


 この映画に関しては監督のカッタネオと主演のロバート・カーライルに直接話を聞いたこともある。カッタネオ監督は『ラッキー・ブレイク』(01)のプロモーションで来日した時、取材したが、その時、『フル・モンティ』の話も出て、こんなことを言っていた――「『フル・モンティ』はコメディだけれど、ジョークだけの映画にはしたくなかった。ハッピーな部分と悲しさを合体させたかった。実人生に似ていると思う。その両方が人生ではないまぜになっているからね」


 ケン・ローチの映画がベースにあって出来上がった作品でもあるが、監督のカッタネオ自身もローチには敬意を持っていて、「『レイニング・ストーンズ』(93)や『マイ・ネーム・イズ・ジョー』(98)など、彼は本当にすばらしい作品を撮っている。ただ、私としてはもっとエンタテインメントの要素をいれたかった。人間味が感じられて、見る人を元気づけられる作品が作りたかった」と語っていた。


 ご本人はすごく温厚な性格で、穏やかな口調でこの映画をふり返り、「この映画の成功のおかげで、女王陛下にも会い、本当に多忙な日々を送った」と当時を振り返っていた。


 一方、主演のロバート・カーライルには1999年にロンドンで会った。当時の彼はアラン・パーカー監督の『アンジェラの灰』(99)に主演していた。こちらも生活苦に負われる労働者階級の人々が主人公の物語。この映画も、『フル・モンティ』も、『トレインスポッティング』(96)も、アウトサイダー的な人物を演じているという共通点があるが、「こういう人物にひかれますか?」との問いには「確かに底辺で生きている人間にどこかロマンをかきたてられてしまう。彼らの痛みに共感してしまうんだよ」と答えていた。作品選びに関しては「キャスト、脚本、監督、ロケーションのおもしろさで選ぶ」と言っていた。かなり気まぐれな性格で、取材もドタキャンが多い、と聞いていたが、その日は妙に機嫌がよくて、「日本からすごくいっぱいファンレターをもらったよ」と取材中は笑顔で接してくれた。当時は人気の絶頂期でもあり、小柄な体全体から人間的なカリスマ性を発散していた。その憎めない人なつっこい魅力が発揮されることで『フル・モンティ』のガズ役は彼の最高の当たり役のひとつとなり、英国アカデミー賞の主演男優賞も手にしている。

 




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