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『フル・モンティ』90年代イギリスを代表する傑作ヒューマン・コメディ

(c)Photofest / Getty Images

『フル・モンティ』90年代イギリスを代表する傑作ヒューマン・コメディ

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アカデミー賞候補になった傑作コメディ



 最初はまるで期待されていなかったのに封切ってみたら大当たり! そんな映画がたまにあるが、1997年の英国のコメディ映画『フル・モンティ』もそんな作品の1本だろう。350万ドルという超低予算の製作費だったが、世界的な興行収入は2億5,000万ドル。製作会社は、近年『哀れなるもの』(23)や『憐れみの3章』(24)を世に送り出しているサーチライト・ピクチャーズ(旧社名はフォックス・サーチライト・ピクチャーズ)。興行的な成功だけではなく、その年のアカデミー賞では超大作『 タイタニック』(97)と並んで作品賞候補になっている。まさに“小さきもの”の力を発揮した成功例だ。


 公開時は、失業した中年のさえない男性たちが一夜限りのストリップで稼ごうとする、という設定が新鮮で、既成の“男らしさ”や“セクシャリティのあり方”に疑問を投げかける、斬新なテーマを含むコメディと考えられた。英国では歴代最も当たったコメディの1本となっていて、その後の英国映画への影響も大きい。また、タイトルの”フル・モンティ“が「すっぽんぽん」を意味する俗語であることもこの映画によって伝わった(蛇足ながら、横浜には同名のブリティッシュ・パプも作られている)。



『フル・モンティ』(c)Photofest / Getty Images


 舞台は鉄鋼町のシェフィールド。かつては栄えていたが、今は多くの工場が閉鎖となり、失業者があふれている。主人公のガズ(ロバート・カーライル)も、そんな人物のひとり。いまは別れて暮らす妻に子供の養育費を払う義務があるが、捻出するのが厳しく、仕事仲間だったデイヴ(マーク・アディ)と金儲けの計画を立てるが、なんともお先まっくらな日々。そんな時、デイヴの妻ジーン(レスリー・シャープ)が男性のストリップ・ショーが好きなことを知り、自分たちもストリップで稼ごうと、デイヴに提案。そこに彼らの上司で、プライドの高いジェラルド(トム・ウィルキンソン)や人生に絶望して自殺未遂を図ったロンパー(スティーヴ・ヒュイソン)も加わる。さらに黒人の老人ホース(ポール・バーバー)や筋肉自慢のガイ(ヒューゴ・スピアー)もオーディションを経て参加することになる。6人の男たちのショーのゆくえは……? 


 製作25周年目にして英国版「ローリング・ストーン」誌(22年8月24日号)に掲載された製作秘話を読むと、本当に厳しい条件を経て、この映画が世に送り出されたことが分かる。この映画の企画の発案者は製作者のウンベルト・パゾリーニ。友人と話をしていて、お金のためにストリップを行う人々の話を思いついたという。そして、ケン・ローチ監督、ロバート・カーライル主演の『リフ・ラフ』(91)を見て構想が固まってきた。『 リフ・ラフ』は刑務所帰りのさえない青年がマンションの建設現場で働き、やがてはその建物に火をつける、という物語。常識で考えれば不謹慎な設定だが、労働者階級の人々のやるせない気持ちがその内容に託されることで、最後は主人公たちに共感できる映画になっていた。


 最初はケン・ローチへの演出依頼も考えたそうだが、コメディの要素をいれたかったので、ローチへの演出依頼はあきらめた。やがて、脚本家のサイモン・ボーファイに話をもちかけると、すぐにこの企画に興味を示した(彼はその後、『スラムドッグ$ミリオネア』(08)も手がける)。監督はイアン・ハート主演のBBCのテレビ作品「Loved Up」(95)を手がけた新人ピーター・カッタネオを選ぶ。こうしてやっと映画の形が出来上がった。





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