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『セント・エルモス・ファイアー』あの頃と友情の確かさを描き、時を超えて感動が甦る

(c)Photofest / Getty Images

『セント・エルモス・ファイアー』あの頃と友情の確かさを描き、時を超えて感動が甦る

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時を超えてリンクする共演者の関係



 『セント・エルモス・ファイアー』公開時、メインキャスト7人の年齢は21〜26歳。ハリウッドスターとしての輝かしい未来に期待がかけられていた。このようなケースでは長い時間を経ることで、7人の誰かが俳優業を断念していたり、あるいは若くしてこの世を去っていたりすることもある。


 アリー・シーディーやメア・ウィニンガム、ジャド・ネルソン、アンドリュー・マッカーシーは、日本ではそこまで話題にならないものの、40年近くを経た2024年もテレビ、映画で俳優として地道に活動している。ロブ・ロウは『アウトサイダー』や『セント・エルモス・ファイアー』で人気スターとなった後、未成年少女とのスキャンダルで一時キャリアを危うくするも、「オースティン・パワーズ」2作(97,99)のように“なんでもやります”的スタンスで、しぶとく生き残っている。2024年、ロブ・ロウはLAドジャースの大谷翔平との2ショットをSNSにアップしたりと、俳優業以外で日本で注目されたりも。


 堅実にキャリアを積んだのはエミリオ・エステベスで、『ヤングガン』(88)では主人公のビリー・ザ・キッドを演じた。初の監督作『ウィズダム/夢のかけら』(87)以来、監督・脚本業に精力的で、ロバート・ケネディ暗殺の日を背景にした群像劇『ボビー』(06)はヴェネチア国際映画祭のコンペティションに入った。近年は俳優としての活動は減ったが、自身の監督・脚本による『 ヤングガン』3作目のプロジェクトも継続中である。



『セント・エルモス・ファイアー』(c)Photofest / Getty Images


 そのエステベスと交際し、婚約までしたのがデミ・ムーア(その後、ブルース・ウィリスと再婚)。『セント・エルモス・ファイアー』の後、『ゴースト/ニューヨークの幻』(90)の特大ヒットでトップスターとなるも、2000年以降は当たり役に恵まれなくなり、本業よりも整形の話題が先行したりと、やや“残念”なキャリアをたどっていた。母親に逮捕歴があるなど、もともと過酷な子供時代を送ったムーアは自身も麻薬に溺れ、『セント・エルモス・ファイアー』の撮影でもコカインでハイになっていたことから、シュマッカー監督は現場から彼女を追い出したこともあった。そんなムーアにとって2024年は起死回生の年となる。最新主演作の『The Substance(原題)』が、カンヌやトロントといった国際映画祭で受賞を重ね、自身もアカデミー賞に向けた主演女優賞レースに加わっているのだ。若さを取り戻す再生医療をテーマにした“ボディホラー”で、彼女は自身の人生も重なるヒロインで狂気レベルの怪演をみせている。


 この『The Substance』でムーアと共演したのが、『憐れみの3章』(24)などで絶好調のマーガレット・クアリー。あのアンディ・マクダウェルの娘である。『セント・エルモス・ファイアー』でエミリオ・エステベスのカーボが一途な想いをぶつける年上女性デイルを演じていたのがマクダウェル。この2人のドラマは作品の中でも、世代を超えた関係として絶妙なスパイスとなっていただけに、そのマクダウェルの実娘が時を超えてデミ・ムーアと共演(しかも一心同体的な役どころ)しているのは感慨深い。デミ・ムーアはエステベスの監督作『 ボビー』に出演したり、ロブ・ロウが出た「オースティン・パワーズ」のプロデューサーを務めていたりと、『セント・エルモス・ファイアー』の同窓生たちのキャリアは、あちこちでシンクロしている。


『The Substance』予告


 『セント・エルモス・ファイアー』の終盤では、自分たちよりも下の世代でにぎわうバー「セント・エルモ」を目にし、主人公たちが自分の居場所ではなくなったことを実感する。デヴィッド・フォスターが作曲したあまりに美しいスコアとともに、二度と過去には戻れない切なさ、さらに彼らの友情がいつまで続くのかという不確かさで胸が締め付けられるわけだが、演じた俳優たちのその後を重ねながら何度も感動を味わえる点も、青春映画の傑作として語り継がれる所以(ゆえん)ではないか。



文:斉藤博昭

1997年にフリーとなり、映画誌、劇場パンフレット、映画サイトなどさまざまな媒体に映画レビュー、インタビュー記事を寄稿。Yahoo!ニュースでコラムを随時更新中。クリティックス・チョイス・アワードに投票する同協会(CCA)会員。



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