1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. ピーウィーの大冒険
  4. 『ピーウィーの大冒険』新人監督バートンと奇天烈キャラが巻き起こした化学反応
『ピーウィーの大冒険』新人監督バートンと奇天烈キャラが巻き起こした化学反応

(c)Photofest / Getty Images

『ピーウィーの大冒険』新人監督バートンと奇天烈キャラが巻き起こした化学反応

PAGES


『ピーウィーの大冒険』あらすじ

ピーウィー・ハーマンはオリジナルカスタマイズされた赤い自転車が大のお気に入り。ある日、買い物に出かけた彼は、何者かに大切な自転車を盗まれてしまう。調査中に訪れたインチキ占い師にテキサスのアラモに向かうよう告げられ、早速旅立つことに。ピーウィーの果てしなく、とんでもない冒険が始まる!


Index


時代が生んだピーウィー・ハーマンという存在



 1980年代に大人気を博していたキャラクター”ピーウィー・ハーマン”。本作は彼を主役に据えた映画だ。グレーのスーツに赤い蝶ネクタイ。髪はポマードでしっかり固め、口を開くと鼻にかかったような甲高い声。ピーウィーはまるで多感な子供がそのまま大きくなったかのような天真爛漫な存在である。


 主演のポール・ルーベンス(1952〜2023)は、もともと即興演劇集団「ザ・グランドリングス」に所属していた頃にピーウィーの役柄を生み出し、これが評判となってからは他に演じていた役柄をいっさい封印。完全にピーウィーになりきったままで各オーディションに顔を出していたと言う。そこからTV進出、全国ツアー、さらには85年公開の本作がヒットを記録し、その後、人気絶頂のさなかの思いがけない転落を経験する91年まで、とんとん拍子のサクセスストーリーが続いていく。


 ただし『ピーウィーの大冒険』で特筆すべきなのはルーベンスだけではない。世間的に全く無名だった頃のティム・バートンが、初長編監督に挑んだ作品でもあるのだ。すなわち本作は、二人の奇才が絡み合って起こした、映画史的に見ても極めてユニークな化学反応と言っていい。



『ピーウィーの大冒険』(c)Photofest / Getty Images


二つの才能の運命的な出会い



 当時、ティム・バートンは岐路に立っていた。ディズニー在籍時に短編ストップモーションアニメ『ヴィンセント』(82)、続いて実写短編『フランケンウィニー』(84/2012年にストップモーションアニメとしてセルフ・リメイク)を手がけて評価されてはいたものの、今後どのような道を歩むべきか決めあぐねていた。とりあえず「ここにいるべきではない」と感じディズニーを離れてはみたものの、だからといってすぐに仕事が舞い込むわけでもない。彼は当時の状況について「何もしていなかった」(DVDの音声ガイドより)と語っているが、裏を返すと、どこかから声がかかるのを待ち構えていた状態とも言える。そんな彼にチャンスをもたらしたのがポール・ルーベンスだった。


 ことの経緯については諸説あるらしい。それらを大まかなところでまとめると、バートンはバートンで知人を介して実写短編『フランケンウィニー』をワーナーブラザーズの関係者に見せることで自身を売り込み、ルーベンスはルーベンスでピーウィー映画の監督を誰にするかで悩んでWB側と候補者リストをやり取りする中、不意に薦められた『フランケンウィニー』を見て「彼しかいない!」と確信したという。


 他でもないピーウィー=ルーベンスが波長の合致を感じたわけだから、これはもう運命の出会いである。もともとピーウィーというキャラを知り、関心を寄せていたバートンもこのオファーを嬉々として受け、ここに双方にとっての記念碑的作品が船出を遂げることになった。


 このオファーは、まだ商業映画界で何ら実績を積んでいないバートンにとって極めて好都合だった。他人の築き上げた土俵なので変にプレッシャーを感じることなく、楽しみながら自らの能力を投入できるというメリットもあった。しかもそれによって初めての商業映画の製作過程をくまなく体験することができるのだ。


 人とうまく話すことが苦手だった彼も、なぜかルーベンスとだけはウマがあった。互いのイメージが容易に共有でき、意見を衝突させることもない。本作における彼らは映画人として、アーティストとして、とても疎通がしやすい相手だったようだ。



PAGES

この記事をシェア

メールマガジン登録
counter
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. ピーウィーの大冒険
  4. 『ピーウィーの大冒険』新人監督バートンと奇天烈キャラが巻き起こした化学反応