『戦火の馬』あらすじ
英国の貧しい農家で、少年アルバートに愛情深く育てられた美しい馬、ジョーイ。だが第一次世界大戦が勃発し、愛馬ジョーイは軍馬として騎馬隊に売られ、フランスの戦地に送られてしまう。敵味方の区別を知らないジョーイの目に、戦争は愚かさで悲惨なものとして映るだけだった。一方そのころ、アルバートは徴兵年齢に満たないにもかかわらず、ジョーイと会いたいがため激戦下のフランスへ旅立つ。
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動物の目線から映し出す、第一次世界大戦
人類の歴史とは、すなわち戦争の歴史であるといっても過言ではない。われわれ人間は、数多くの争いを経験し、それらの戦史を映画の中に克明に記録してきた。映画と戦争はその性格上、切っても切れない関係なのだ。それは紛れもない事実であるといえよう。
第二次大戦中には多くの国々によって多岐のプロパガンダ映画が製作され、その一方的な思想喧伝によって多くの国民が集団意識的に扇動された。戦後の作品には、以前にも増して物語性が要求され、反戦を掲げる作品も少なからず現われた。映画史の礎を築いたのは、ある意味では、戦争映画であるともいえる。
今でこそ、スタンリー・キューブリックの『フルメタル・ジャケット』(87)、クリストファー・ノーランの『ダンケルク』(17)はじめ、魅せ方も伝え方もまるで異なる、多様な戦争作品がスクリーンを賑わせて久しいが、その中で、第一次大戦を描く『戦火の馬』(11)は、戦争の悲劇を緻密に捉えながらも、その片隅に宿る優しい魅力に焦点を絞った作品だ。
同類の戦争映画と一線を画しているのは、戦争の酸鼻を動物の目線から描写している点であろう。過去の戦争映画では、過酷な前線で戦う兵士、あるいは戦争に巻き込まれる市民など、様々な境遇の人間を通じ、その生き様が描かれる。しかし本作では、動物を実質的な主役として配置し、戦場に生きる多くの人間を、あるいは戦争そのものを、まさしく動物の視点から客観的に描く方法が取られた。
映画は、英作家マイケル・モーパーゴの児童文学「戦火の馬」(評論社刊)および、その文学に基づく同名の舞台劇を原作としている。物語は、青年アルバート・ナラコット(ジェレミー・アーヴィン)と、彼の愛馬ジョーイが第一次大戦の戦火に巻き込まれ、異郷の戦地で互いに戦場を駆けるさまが描かれる。
監督のスティーブン・スピルバーグは、モーパーゴの原作小説を読み、好評だった舞台版も観劇。彼は、モーパーゴの心温まる筆致に圧倒的な魅力を感じ、すぐさま映画化に着手したという。映画史の幕開けから現在にいたるまで、“戦争”は映画の中で扱われる不滅のテーマだ。『戦火の馬』は、純粋無垢な動物の視点を借用し、まだ見ぬ“戦争”の側面を暴き出している。