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新しい潮流を生み続ける『リリイ・シュシュのすべて』の先駆性とは

©2001 LILY CHOU-CHOU PARTNERS

新しい潮流を生み続ける『リリイ・シュシュのすべて』の先駆性とは

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現在につながる『リリイ・シュシュのすべて』の諸要素



 この若い世代による動きは嬉しい驚きである。というのも公開当時、筆者は『リリイ・シュシュのすべて』を極めて「同時代的」な作品だと認識しており、その先駆性や予見性までは(当然にも)射程に入れていなかったからだ。


 例えば本作の序盤では、テレビでバスジャック事件のニュースが流れている。これは2000年5月に発生した「西鉄バスジャック事件」(犯人は当時17歳の少年だった)を思わせるものだが、同様のバスジャック事件を起点に、乗客が次々と殺される凄惨な現場から生き残った中年の運転手と、10代の兄妹の心の回復を目指す旅を描いたのが青山真治監督の『EUREKA ユリイカ』(2000年にカンヌ国際映画祭で国際批評家連盟賞とエキュメニック賞を受賞。日本公開は2001年)である。驚くべきことに、青山監督がバスジャックを取り上げたのは実際の事件を参照したわけではなく偶然。この共振や符合により、両作は互いにスピンオフの関係にあるようにも見えてしまう。ちなみに同じ1985年生まれの「Wあおい」――『リリイ・シュシュのすべて』は蒼井優の映画デビュー作であり、『EUREKA ユリイカ』は新人時代の宮崎あおいを世に知らしめた出世作のひとつでもある。



『リリイ・シュシュのすべて』©2001 LILY CHOU-CHOU PARTNERS


 そして14歳の少年少女の実存を懸けた戦場を描いた点で、1995年からテレビ放送が始まった庵野秀明のアニメーション『新世紀エヴァンゲリオン』(岩井俊二は役者として、庵野監督の2000年の実写映画『式日』に主演もしている)や、作家・高見広春の唯一の発表作品を深作欣二監督が映画化した『バトル・ロワイアル』(2000年)との関連も外せない。ベテランの巨匠・深作監督はこれを遺作として亡くなったが、実は庵野作品に刺激を受けていたらしい。さらに当時は先述の西鉄バスジャック事件などで少年犯罪への注目が高まっていた時期でもあり、残酷な暴力描写の多い『バトル・ロワイアル』は国会討議で上映規制を求める騒動にまで発展した(結果としてR-15指定に)。


 また類似の主題を装填した重要な先行作としては、郊外で蠢くティーンたちの「平坦な戦場」を描いた岡崎京子の漫画『リバーズ・エッジ』(1993年~94年発表)が挙げられるだろう。同作は今年(2018年)の2月、『四月物語』まで岩井組の助監督を務めていた行定勲監督による映画版が公開された。


 世紀末から今世紀への端境期に起こった同時代的共振の数々――。しかし、いまとなってはこの重要性もさることながら、『リリイ・シュシュのすべて』が備えていた現在につながる先駆性にこそ注目すべきだろう。例えばスクールカーストなどの閉塞が渦巻く地方の学園様相は『 告白』(2010年/監督:中島哲也)や『桐島、部活やめるってよ』(2012年/監督:吉田大八)などに通じるものだし、インターネットを本格的に取り入れた最初期の映画でもある(先行作として挙げられる1996年の森田芳光監督作『(ハル)』では、まだ「パソコン通信」だった!)。また本作はHD24Pカメラを早い段階で使用したデジタルシネマの嚆矢のひとつでもあった。



『リリイ・シュシュのすべて』©2001 LILY CHOU-CHOU PARTNERS


 こういった諸要素のおかげで、『リリイ・シュシュのすべて』は同時期の作品に比べてノスタルジーで語られることが少ない。いまも「自分(たち)の物語」という観る者の切実な想いを喚起する映画として、現在進行形で生きているのだろう。また岩井俊二自身、現時点での最新監督作『リップヴァンウィンクルの花嫁』(2016年)では真面目な女性の社会的転落をポジティヴな視座へと逆転させつつ、日本全体の閉塞を見据え、ハードコアな「社会派」としての本領を久々に発揮した。


 もちろん学園映画の常として、当時の新進俳優たちのショーケースという側面もあって、いまをときめく高橋一生が剣道部のイケメン部長「池田先輩」として出演しているあたりはお宝映像だろう。2004年に惜しまれつつ亡くなった名手カメラマン・篠田昇(遺作は行定勲監督の『 世界の中心で、愛をさけぶ』だった)の撮影も最高に素晴らしく、映画に永遠の生命力を与えている。



文:森直人(もり・なおと) 

映画評論家、ライター。1971年和歌山生まれ。著書に『シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~』(フィルムアート社)、編著に『ゼロ年代+の映画』(河出書房新社)ほか。「週刊文春」「朝日新聞」「TV Bros.」「メンズノンノ」「キネマ旬報」「映画秘宝」「シネマトゥデイ」などで定期的に執筆中。 



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作品情報を見る



「リリイ・シュシュのすべて」Blu-ray

監督:岩井俊二 主演:市原隼人、忍成修吾

品番:NNB-0003

発売・販売元:ノーマンズ・ノーズ

価格:¥3,800(税別)

©2001 LILY CHOU-CHOU PARTNERS

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